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冥王の影 メーザーカノン メカぃょぅ メカシラネーヨ 目薬 メタルジエン Metropolis メビウス メモ・伝言板 メルト
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「そうだ、我を崇めよ…。 我はいずれ「神」となる存在なのだからな!」 「傲慢」を司るマリス。 七つの大罪のマリスの一体であり、名も無き王国を空襲した張本人。 座右の銘は「高笑う門には悪来たる」「笑いの荒鷲空高く」「武士は食わねど高笑い」 財務大臣の七輪に潜んで様子を見、ルフトヴァッフェを率いて空襲を行った外道。 更には二体のマリスを生み出させたりとやりたい放題。 しまいにはフォートレスボマーで主人公たちを迎撃し、やられるや否や逃げようとした。 しかし結局は終焉モードの主人公にぼこぼこにされ消滅した。合掌。 高笑いをボイス付きで放ってくるマリスであり、うざい。 見下してるくせに逃げ癖ありでチキン。なんて悪意だ。 なお、マリスになったものはマリスにすることに長けているというキーのセリフからすると、こいつは純なるマリスでない可能性もある。 まあ可能性に過ぎないのだが。 名前 コメント すべてのコメントを見る
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乾いた風が吹く道を一人の青年が進んでいた。 灰色の髪に無骨な顔。緑のズボンと赤いアーマーを着込んだ男はナップザックを背負いながら正面を向いた。 青年の名はロイ。料理が趣味の旅人である。 趣味とはいえ調理師免許をもつくらい腕はある。そこらの料理人には負ける気はない。 料理に携わるものとしてのプライドも持ち合わせている。 (今日はここで休むか) ロイがたどり着いたエリアから、近い街を選び今日の宿を選ぶ。 治安もしっかりしていると手持ちのデバイスで確認して、エリアへと足を踏み入れた。 その彼がそこで忘れられない存在と出会ったのは、ただの偶然である。 当時は料理人かハンターか悩んでいる彼が、料理人の道を断念した記念すべき日だ。 これはひどい、とロイは思わず思考してしまう。 破壊されたビルに撤去されていないメカニロイドの残骸が道路に転がっている。 残っている建物も炎で焼けた跡や車がつっこんだ状態が放置されていた。 ガーディアンのメンバーがやたら多く、瓦礫などを撤去しているために一人つかまえてロイは尋ねる。 「おい、なにがあった?」 「一週間前にイレギュラーの襲撃があったんです。ここは危ないので、速やかに安全エリアへと移動をしてください」 そうロイへガーディアンの隊員は説明して、瓦礫の撤去の作業へと戻っていった。 タイミングの悪いときに訪れたものである。 自分が宿泊できる施設は残っているだろうか。 一縷の望みに託すようにロイは奥へ進む。 その考えが甘いことはすぐに分かった。 公共施設はヒトビトで溢れかえっている。本来の街の住民ですら避難所暮らし。 流れ者であるロイが過ごせる場所などありはしないだろう。なんてことだ。 (このまま通り過ぎて、別の場所へ向かうのもいいか) そう考えてため息をつき、歩くのを再開する。そこへ食事用トレイを持った子どもが通り過ぎた。 トレイに乗った食材に気づき、視線を移動する。 「サバ……?」 珍しい食材を見たものだ。魚自体最近は収穫量が減ってきている。 クローン食材がほとんどで、養殖ものすら魚は珍しい。 「あ、新しいヒトですね。食事はいかがですか?」 ロイが話しかけられ振り向く。ヒラヒラのメイド服が視界にはいり、内心なぜメイド服? とツッコンだ。 それはさておき、ロイは少し考える。旅の途中食料が不足し、食材の補充を期待して寄ったのだが今の状況では望むべくもない。 ゆえに一食でも浮かしたい、というのが理由の一つ。 もう一つの理由が珍しい食材をどう調理しているのか、料理人として気になった。 「わかった、案内してくれ」 ロイがそういうと、メイド服の女性が列の最後尾へと案内してくれる。彼女の他にも、複数のメイド服の女性がいた。 災害時の配給所としかいいようない施設でメイド服の女性が接客しているのシュールだ。 これでサバの食材をダメにしているような料理だったらどうしよう、とロイは本気で頭を痛めた。 □ 「天道、一つ聞いていい?」 「なんだ?」 端正な顔つきの長身の青年、天道総司は料理をしていた。なぜかというなら答えは単純。 一週間前のワームとイレギュラーの混合部隊の襲撃を受けた街のヒトビトに、暖かく美味しい食事を届けるためだ。 作務衣姿の天道はかつて妹に振舞ったように、料理をヒトビトに振舞っていた。 「なんで……アタシたち女性陣はメイド服なの?」 そういって喋る少女、エールはヒラヒラのスカートをちょんとあげる。 フワっとした黒い服にエプロンドレスを着けた、エールにしては珍しい可愛らしい服装だった。 普段は男勝りな性格に隠れる可愛らしいエールの顔が、やや紅潮して愛らしさを強化している。 そのエールに天道はサラッと告げた。 「似合っているぞ」 「うん、それはありがとう。けどこんな場違いな……」 「それは違うぞ、エール」 天道はあっさりと告げて天へ人差し指を向ける。 「おばあちゃんがいっていた。料理とは口に入ってからが料理ではない。目に入ってからが勝負だと」 よく通る澄んだ声が堂々と告げる。やや呆れ顔のエールに対し、なんの不満があるか本気でわかっていない顔だった。 「うん、この前みたいに食材を調達するのはよくわかる。けど今回は理解できない……」 ときどき天道は暴走する、とエールは天を仰いだ。 □ この日から二日ほど前、ライブメタルの捜索を一旦中止してエールは街の復興を手伝うことにした。 なぜか堂々と指揮を取っている天道に呼び出され、とある漁港へ連れてこられたのだ。 「天道、食材はプレリーたちが調達してくれるみたいなんだけど……」 「基本はそれで構いはしない。だが、新鮮であることが重要な食材もある。そのための交渉はすでに終えている。付き合え」 はあ、と料理は専門外であるためエールは天道に従った。 しかし、なぜ自分だろうかとエールは疑問をもつ。 そうこうしている間に、港の一つの船へ天道が向かった。 「お、天道のアニキ! 船の用意は出来ているぜ」 そういう男に天道は静かに頷いた。エールはガラの悪い服に身を包み、赤い兜をかぶった男を観察した。 なんとなくだが、堅気の人間っぽくない。 「礼をいうぞ、ウルフ」 「へへっ、あのとき助けてもらった礼ですぜ。ところで、そのお嬢ちゃんは天道のアニキのコレで?」 ブッ! とエールは小指を立てるウルフの仕草に吹き出した。 顔を真っ赤にするエールを前に天道は微塵も動揺せず説明する。 「同僚だ。今回の仕事を手伝ってくれる」 「通りでアニキのコレにしちゃ子供すぎると思ったぜ。嬢ちゃん、俺はウルフってんだ。よろしくな!」 「……アタシはエール。ヨロシク」 エールは子供扱いされたことに不機嫌さを隠さず、ウルフの差し出した手を握り返した。 口調が棒読みになりウルフにプレッシャーをかけて引かれているが、気にしない。 「時間がない、ウルフ。船を出してくれ」 天道の指示通り、ウルフは操縦室へ指示を飛ばす。船が出てエールの不機嫌さを指摘した天道に「なんでもない!」と答えた。 数時間かけて訪れた地点で船を止め、天道が海を前に網を用意した。 そこへウルフが愚痴ってくるのをエールは見ている。 「天道のアニキ、漁業ができる時間は少ないですぜ。まったく、魚の保護とかいって量も時間も決められているなんて……」 「しかたない。より美味しい魚が多くのヒトに行き届くためだ。俺は妥当だと思っている」 今回必要な分さえ確保できればいい、と天道は告げてカブトゼクターを掴んだ。 いつの間にかベルトを巻いているのに、エールは疑問符を浮かべる。 ウルフがそのエールの疑問を尋ねてた。 「へ、変身するんですか!?」 「その方が早い。あと十分ほどでサバの群れがここを通る」 「いったいどういう根拠でいっているの?」 「俺の計算と、長年の勘だ。変身!」 ウルフは変身できるのを知っているんだ、とポツリと漏らすが気にするものはいない。 変身を終え、銀の仮面ライダー、カブト・マスクドフォームへと変身を終える。 カブトは網をつかんで、エールへと視線を向けた。 「エールも変身しろ」 「へ? アタシも?」 「ドレイクゼクターを使えば水中も行動できるはずだ。確かマスクドフォームとライダーフォームの特製が混ざっているという話だったな?」 『ええ、それは本当だけど……もしかしてサバを捕まえるためにエールを連れてきたの……?』 「その通りだ」 モデルXの疑問にカブトは迷いなく答える。モデルZは呆れて声もでない。 エールは天道らしいなあ、ぐらいしか感想がでなくなっていた。慣れって怖い。 エールは特に反対らしい反対もせず、あっさりとロックマンDX(ドレイクエックス)へと変身した。 □ (ごめんね、ドレイクゼクター。あなたの力をくだらないことに使って……) まあ、謝ってもしょうがないかとエールはあっさりと思考を切り替える。 配給用の食事をトレイに乗せて次々配っていった。 エールも協力したかいがあってか、サバはヒトビトに人気だ。 サバを使った料理は天道の得意料理らしい。昨日作ってもらったときは確かにうまかった。絶品だ。 灰色の髪の旅人らしきヒトに配給し、エールは離れた。 「ムッ! この味は…………」 男のつぶやきになんとなく興味を持ってエールは振り向く。 男は身体を震わせてスプーンを口に含んだままで目を見開いている。 さらに身を切り分けてサバを三口に含み、男ははぁ、とため息をついて空を見上げた。 「な、なんという味わい深さ……。サバを煮て味噌とタレをかけただけの一見単純な料理に見える。 しかし火はサバ全体に均等に通り、子供も食べやすいように小骨をとっているというのに身が崩れていない。コレは料理人、手馴れているな……」 男のつぶやきにエールは思わず笑みを浮かべる。 天道の料理の腕はガーディアンのみんなが認めている。 その彼が褒められているのは、なぜか知らないが誇らしかった。 男はさらに食を進めて感動に身体を震わせていた。 「赤味噌と白味噌がいい具合に混合されている……四:一くらいの割合か? サバを知り尽くしている……まさか。 すまないがそこの娘さん、頼みがある」 「はい?」 話しかけられるとは思っていなかったエールが、思わず間抜けな返事をする。 男は真剣にサバを示して詰め寄ってきた。 「このサバの味噌煮を作った男のもとへと案内して欲しい!」 溢れる熱意に少しだけたじろぎながら、エールは首を縦に振った。 エールは天道の元へ怪しい男を一応警戒して連れてきた。 天道の手際は恐ろしくよく、溢れかえっていた街のヒトビトへの配給分の食事はすでに作り終えている。 後の巡回に加わるためである。いつか天道がプレリーのことを働きすぎだと評していたが、エールからすれば天道もその類の人間である。 閑話休題。 天道のもとへロイを案内したエールの眼前に、奇妙な光景が映っている。 ロイが土下座して天道へ今後の料理の手伝いをさせて欲しいと懇願している。 なぜこうなったのか、少しだけエールは記憶をさかのぼってみた。 「あんたがこのサバの味噌煮を作ったのか?」 「そうだ」 ロイの不躾な態度に、さらに上回る不遜な態度で天道が返した。 問答無用なロイの態度にエールは疑問を抱く。先程まで味に感動をしていたのに。 「あんた……いったいなに者だ? こうまでサバに精通しているなんて」 「おばあちゃんがいっていた。料理の道は天の道に通じる。ゆえに俺こそがすべての味を知る資格があるとな」 「天の道!?」 ロイが天道の言葉に反応する。エールとしては聞き慣れたが、初見で天道の口上は呆れるよね、と頷いた。 もっとも、天道本人にいってもフッ、とキザな笑みを返されるだけだが。 しかし、ロイの反応はエールの期待したものではなかった。 「まさか……あの天の道か!?」 「天の道は一つしかない」 「バカな……あの天の道はとっくの昔に後継者をなくしたという話だ……。だが、このサバの味……本当の本当に天の道なのか……?」 「あのー、天の道のどこに驚いているの?」 エールはロイの予想外の反応に思わず尋ねてしまう。ロイはエールを一度みて呼吸を整え、静かに話を続けた。 「万の料理法に精通し、特にサバと豆腐の調理において右にでるものはいない。食べたものを天国へ招待し、味わったものはすべて神の福音を耳にする。 その料理はいくら金を出しても味わえるものではないが、真に飢えたものには無償で料理を振舞い義の料理人と称された。 東にサバを担いで現れたと目撃されて、すぐ西で豆腐をもって神に迫る腕を披露した神出鬼没の存在。 かつて料理界を闇の料理人が支配しようとしたとき、天の道を極めた料理人が立ち向かって世界の料理を守ったといわれる救世主。 幻の白包丁を持つ伝説の料理人の称号……“天の道”。その後継者だというのか……?」 半信半疑といった様子でロイが熱く語る。途中でエールへの説明という部分を失念しているように見える。 どちらかというと天道に確認をしたいという様子だ。 いくらなんでもおおげさだとエールが思っていると、天道は真剣な眼差しのままロイへ告げる。 「よくわかったな」 「ちょっとは否定しなさいよ! おおげさでしょうがッ!」 エールがツッコムが、天道はむしろエールを不思議そうな瞳で見つめる。 エールが悪いのは自分か? と疑問を抱いて言葉をぶつけた。 「だいたい、白包丁なんて持っているの? 今まで使っていないでしょ?」 「持っているぞ、ほら」 エールの疑問に天道があっさりと答えた。あるのかよ! という内心のツッコミをしたままエールは差し出された白包丁をつかむ。 白い鞘に包まれた包丁を引き抜こうとするが固い。エールが「ぬぅぅぅぅ……」と力を込めるが抜けない。 「なにこれ……?」 「そう乱暴に扱うな。俺にも触らせてもらっていいか?」 ロイが横から口を出し、エールから包丁を受け取った。ロイも包丁を抜くことが出来ないらしい。 砥が行き届いていないんじゃないか? と責めるように天道を見るが、天道はあっさりと包丁を引き抜いた。 暖かい陽光のように刃が光を反射している。曇りない刃は見事に研ぎ澄まされていた。 ならなぜ先程は抜けなかったのか不思議だが、疑問はロイが解いた。 「本物の白包丁……自らが扱うものを選び、その者しか抜けないという伝説は本当だったのか」 いや、疑問が解けたのではない。わけわからない答えが返ってきたのだ。 エールはファンタジーの伝説の剣のような設定の“包丁”がバカバカしくて溜息をつく。 斬る相手は魔物ではない。食材なのだ。呆れるのも無理はない。 「本物の天の道がこんなところに……いや、天の道だからこういう場所にいるのか……」 なんだか天の道に対してのエールの印象が崩れていく気がするが、事実ならしょうがない。 天道が異世界の人間ということを知らないため、天道にそういうことをしている暇がないはずなのだがエールにはツッコメない。 エールの呆れた感情が膨れ上がるなか、ロイが地面に屈する。 両膝を折りたたみ、地面に手をつけて頭を下げた格好。たしか土下座といった行為だ。 「頼む、俺をあんたのもとで料理を手伝わせてくれ!」 ロイがこれ以上にないくらい真剣な言葉で告げる。 置いてきぼりを食らったような気持ちのエールが天道を見ると、天道は厳かに頷いた。 「いいだろう。だが俺の指導は厳しいぞ」 偉そうに。エールの感想は感激したロイの威勢のいい返事に掻き消えた。 ため息をつき、エールは再び悟る。天道に常識は通用しない、と。 □ ロイが天道のもとで料理を手伝うようになって翌日。 またも街を訪れる男がいた。黒いマントで全身を包んだ男が笑う。 道いく人は振り返り、妙な格好をする男に首を傾げていたが構わない。 「フフ……天の道。待っていろよ……」 男が不気味に笑いカミナリが落ちる。雷雲轟くなか、不気味な男の笑い声が響いた。 「おい、そこの男。身分を確認させてもらうぞ」 ガーディアンのメンバーがあっという間に取り囲み、男をチェックし始める。 ちなみに男が不審人物と通報されて解放されるまで一日を要した。 「天道さん、賄いをつくってみた。どうだ?」 「ふむ」 天道がロイの用意した賄い食を一口分スプーンで掬った。忙しい昼時も終り、ロイは批評を頼んでいたのである。 その天道のスプーンが横から奪われ、怪しい風体の男が食べた。ロイは怒り、男へ抗議する。 「あんた、なにをする!?」 「ふん。天の道がいると聞いてきてみれば……なんだ、この賄いは?」 ズイ、と男がスプーンをロイへ突き出す。ロイが困惑しているが、怪しい男は興奮して責めつづけた。 「火の通りは悪くないが、魚に金物臭さが染み付いている。キサマ、包丁を使ってこの魚を切ったな?」 「あ、ああ」 「身が崩れにくい魚にはなるべく竹包丁を使うのが常識だ。身が崩れやすい魚でも、金物臭さが染み付かないように気を付けるのは当然の心構え。こんな料理、豚の餌だ!!」 男が興奮しロイを罵倒する。エールは横で聞いていたが、いきなり現れて偉そうに説教する身元不明の男に我慢がならなかった。 言葉を失っているロイをよそに、エールがくってかかる。 「いきなり現れてなによ、あんた!」 「ふむ、そういや自己紹介がまだだな。天の道、キサマに勝負を挑みに来た。我ら……闇の料理人がな!」 「闇の料理人だとォ!?」 「…………知っているの? ロイさん」 またワケのわからない男が出てきた、とエールが呆れながらロイに尋ねる。 ロイはエールに天の道を説明したように険しい顔で闇の料理人について語りだした。 「この世に権力者が現れて以来、彼らはみな腕のいい料理人を傍らにおこうとした。 権力に仕える料理人の中から、やがてその料理の力で権力者の心と身体をも操る者が現れた。 そのような闇の料理人の頂点に立つ者に伝わってきたものがある。白包丁と対をなす、その名も……」 「黒包丁。こいつのことかな?」 不気味な男が含み笑いを浮かべたまま、妖しい光を放つ包丁を掲げた。 エールは眉をピクリと動かす。確かにあの刃には普通の刃物にはない妖しい雰囲気が存在する。 まるで血を吸い取り、光を増すような妙な感覚にとらわれた。背ずじがゾクリとする。 あれはそうそう簡単に手にしていいものではない。ごくり、とエールはツバを飲み込んで思った。 (でもあれ、包丁なのよねぇ……) いまいち、緊張感に欠ける。エールは誰かに愚痴りたい衝動をこらえた。 だいたい闇の料理人ってなんだ。権力者を操るとか、たかが料理に出来るのか。 ミニ四駆で世界征服を目指すマッドサイエンティストを漫画で読んだ大人のような醒めた感想しか浮かんでこない。 「なるほど……俺を倒し闇の料理人の再興の憂おいを断つということか」 「そういうことだ……クックックック」 そういってマントを男が脱ぎ、秘密のヴェールを脱ぐ。 和服をスラッとした肢体で着こなした妖しい光の瞳の男。 「俺の名はヨミ! 闇の料理人最強の後継者として、天の道! キサマを倒す!」 「いいだろう、俺はどんな勝負からも逃げはしない」 そういって二人は黒包丁と白包丁を構えた。ニヤリ、と天道が強敵を認めた笑みを浮かべる。 始めて見る表情だが、なんだかもったいない気がする。それもご愛嬌。 「勝負は明日、午前十二時……パスタ対決だ! 逃げるなよ?」 ヨミの挑発に天道はフッ、と笑って挑発する。いつもと変わらない態度。天道はいつでもどうぞ、と言外で告げていた。 踵を返す男を見届け、エールはドッと疲れる。妙なことにもなっったのだと呆れ果てるしかなかった。 ヨミが帰った後、ロイがすぐに天道に頭を下げた。 天道は首をかしげるが、ロイは悔しそうに声を搾り出す。 「すみません……俺のせいで……」 「いや、どの道奴との対決は免れなかった。そう悔やむな」 それに、と天道は不敵に笑う。戦場で何度も目にした頼もしい眼差しだ。エールには見覚えがある。 「俺は負けはしない。なぜなら最強だからな」 それは料理対決で使う台詞か。 そうツッコム気力もエールにはなかった。 「天道さん……しかし、パスタ対決……」 「問題はない。材料は揃っているからな」 「いつの間に?」 「なに、こんなこともあろうとだ」 伝説の台詞を告げる天道だが、いったいどういう場合を想定したというのだろうか。 まだ単純に明日のメニューはたまたまパスタだった、と説明された方が納得いく。 もっともそんな常識的な答えが返ってくることは、エールはとうに諦めているが。 「ロイ、お前の賄いは奴の言い分が一部正しい」 「ああ……俺はまだ未熟だ」 「だが、そう落ち込むことはない。なにより、食べるものに喜んで欲しい。そういう料理の王道から逸れていない。俺が保証する」 そういって天道はロイにほほ笑んだ。ロイは驚いて戸惑っていた。 本当、面倒見はいい奴だ、とエールは少し胸が暖かくなった。 □ 太鼓が叩かれ、賑わっている配給所に一際大きい音が鳴り響いた。 テントが並び、普段はここでの料理を楽しみにしている一般人も祭りの雰囲気に色めきだつ。 ちゃんとお客さんが味わえるように五十ほど席が作られている。あぶれた人は立ってまで見ようと足を運んでいた。祭り好きなんだろうか。 観客席の眼前では、TV局のスタジオくらいの広さの空間が開けられていた。 対をなすキッチンが二台。食材が山ほど周囲に詰まれている。 キッチンの奥には、三つの客席が存在していた。上には観客に見えやすいようにTVまで取り付けられている。 その準備の良さをみて、エールは何度目かわからない呆れたため息をついた。 「お、どうっスか? エール」 「これ、アンギーユが用意したの?」 「そうっス! ちょっと苦労したけど、また料理対決が始まるなんて楽しみっス!!」 「また……?」 「あ、そういやエールは病院にいたっスね。そのころ闇の料理人の使いってのが天道に挑んできたんっス。 今度は大物だから、一番白熱したバトルになりそうっス!!」 そんなことがあったんかい、というエールのツッコミは虚しく消えた。 髪が逆立ったアンギーユが忙しそうに離れていった。なんだかなー、とどこか醒めた目つきでエールは舞台へ視線を移す。 料理勝負は間近に迫っていた。エールは自分に与えられた席へ向かった。 「え~と、ほ、本日は天道さんと闇の……闇? 闇の料理人・ヨミさんの料理対決へお集まりいただき、感謝します」 金のブロンドが陽光を反射して輝き、赤に近い桃色の司令官用制服に身を包んだプレリーが戸惑うように料理対決の始まりを宣言する。 同時に場は盛り上がり、盛大な歓声が広場に響いた。 エールは周囲の盛り上がりを醒めた目つきで見ながら、プレリーまで巻き込んでいたことに驚いた。 最初真ん中の席に座らせたとき、プレリーが戸惑ったようにキョロキョロしているのをプレリーは見逃していないが。 「勝負の方法は簡単。二人に料理を作ってもらい、みなさまに食してもらって採点してもらいます。料理品目はパスタ。 手元に二つのスイッチがありますので、食後に美味しいと思った方のスイッチを押してください」 そういってエールは手元のスイッチを見た。白いスイッチが天道、黒いスイッチがヨミという人だ。 ガーディアンのメンバーが判断すると天道が有利すぎるため、発案したルールなのだろう。 まあ、天道なら「美味いとみなが思う料理こそ、最高の料理だ」とでもいいそうだが。 ふっ、と場の空気が変わる。まるで戦場のような感じにエールは警戒して周囲をみやる。 周囲のヒトビトも空気が変わった程度は理解したらしく、戸惑っていた。 エールは殺気の発生源を見つける。ヨミと名乗っていた男が、天道を殺しかねないほど鋭い視線を送っていた。 ニヤリ、とヨミが笑う。 「この料理対決、一筋縄ではいかないな……」 「ロイさん」 エールはいつの間にか隣にいた青年の姿に驚く。 料理に真摯な態度の彼は天道とヨミの姿を凝視していた。 場を支配する緊張感を前に、プレリーが合図をする。 「それでは料理対決、始めてください!」 プレリーの凛と通った声が広間に響き、同時に天道とヨミが包丁をとる。 神速の包丁さばきが両者のキッチンで繰り広げられた。 □ パスタを茹で上げる時間はほぼ同時。ヨミはデュラム小麦を使って練り上げ、切り揃えたパスタ麺のお湯を切りながらソースの続きに取り掛かる。 パスターメーカーを横切りニンニクの香りがするフライパンを確認する。ウィンナー、マッシュルームを炒め煮ていたトマトソースを準備する。 食欲を刺激する強い香りに周囲の人を取り込んでいることをヨミは自覚していた。 料理に置いて見た目の前の段階、匂いが重要である。食材が持つ香りを何倍にも増幅し、鼻に届けることによって食欲を刺激する。 見た目、食感、味、とさらに段階を踏ませて五感を通したときこそ、ヒトは料理に支配される。 料理の進行状況は満足といっていい。天道を見る余裕もあった。 ヨミは天道の手際のよさに感心し笑みを浮かべる。闇の料理人と天の道……光の料理人は対をなす存在だ。 しばらく途絶えた光の料理人。最後と思われる後継者の登場にヨミは心が踊った。 料理とは味で相手を快楽につけて、屈服させるもの。 闇の料理人の基本であり、これまで生きたヨミの信念だ。 そのヨミと違う料理を作るものを屈服させることで、闇の料理人が正しいことを世界に知らしめる。 ガーディアンの司令官が存在しているとは都合もいい。 光の料理人、天道に勝ちここを世界の支配の足がかりにする。 長年の闇の料理人の悲願。ヨミは力を入れて自慢の逸品を作りあげていった。 天道を意識するヨミとは対照的に、天道は気負わずいつもの通り料理を作っていた。 本来の時間軸とは違い、天道は闇の料理人が一人、生簀一郎と料理勝負をしたことはない。 だが、白包丁を手にしたあの日、似たようなことが“この”天道にもあったのだ。 オリーブオイルをひいた鍋から、強い磯の香りが広がる。 イカの輪切り、殻を剥いたエビ、あさりを均等に火が通るように炒めあげていった。 シーフードソルトにトマトの香りがただようソースを入れて、しばらくして小皿にとって味を確かめながら満足に頷く。 天道はヨミを見ていない。それは眼中にないのではなく、料理にとって大切にしていることの相違の現れだ。 タマネギを転がして包丁を手に取る。そこでヨミが話しかけてきた。 「おい、天の道。キサマ……ふざけているのか?」 「なんの話だ?」 「なぜキサマ……白包丁を使わない!」 フッ、と天道が笑う。最前列のロイがなにか気づいたような顔をしている。 こいつはあの日、ヨミによってバカにされた料理の時に使っていた包丁だ。 「お前がバカにした金物包丁だが、こういう場合は白包丁より役に立つ。ただそれだけだ」 「ほざけ……後で泣き言をいっても遅いぞ!」 そういってヒートアップするヨミを余所目に天道は手を進めた。 ヨミがあえて香りを強調しているのを天道は止めはしない。 料理は香り、見た目、味と五感からくるものと基本がわかる相手。 しかし、惜しいと思う。ならば天道の天の道が示してやらねばならない。 リズミカルにタマネギを切る音がやみ、みじん切りになったそれを鍋に入れた。 「終了!! 二人とも手を止めてください!」 マイク越しに司会者を買ってでたウイエの声が拡大されて広場に響く。測ったかのように天道とヨミは手を止める。 出来上がった料理を前にヨミは腕を組んで自信満々に佇んでいた。 対し、天道はあくまで自然体である。 「それでは両者の料理を皆さんに食べてもらいます。まずは…………」 「俺からいかせてもらうぞ、天の道」 ヨミが自信満々に前に出る。天道は無言で頷いて文句はない、と態度で示した。 ヨミはバカな行為だと天道を蔑んでいる。わざわざトマトソースを使ったパスタとしてメニューをかぶらせたのは偶然ではない。 同じくトマトを使ってかつ、天の道より闇の料理人が優れているというのを示す。 それだけではなく、先に料理を出した方が有利なのは明白。味に慣れてしまい後出しの評価が落ちやすいのだ。 もっともこれは、出来上がった料理の味が同等以上でないと意味がない。もし後出しがうまければ、あっという間に先出しの料理の味は上書きされる。 だからこその自信。絶対負けないという闇の料理人の自負がヨミにはあった。 ヨミはニヤリと笑みを浮かべて、モッツアレラチーズを乗せた真っ赤なパスタを評価をするヒトビトへ配ることを顎で指示した。 偉そうな態度であるが、周りは従って配っていく。 客という名の支配するべきヒトビトが、鮮やかな赤いパスタの香りにどよめいた。 見た目、香りともに客を支配している。後は口にしてもらうだけだ。 「品目はモッツアレラチーズのトマトソースパスタ。トマトソースの香りがお腹を刺激します。早く食べた~い! それでは皆さん、試食をどうぞ!」 ウイエの合図とともに、フォークを手にとってヒトビトがパスタへ手をつける。 勝ちを確信しているヨミは口の端を持ち上げるだけだった。 (パスタか……) ガーディアンの司令室でモデルVの反応を追っていたプレリーは、ウイエたちに無理やり連れてこられて解説役を押し付けられた。 平和のためにガーディアンの司令官としては有能であるが、プレリーは料理に詳しくはない。 天道が着てから食事が豪華になったのだが。 それはさておき。 料理に疎いプレリーだからこそ、試食役兼解説役を勤められた。プレリーの両隣にいるヒトは、この街の住民だが普段は天道食道に足を運んでいないヒトたちだ。 プレリーと同じく料理に詳しいわけでもない。あくまで平等に、とは天道の望みだ。 プレリーはフォークでパスタを巻いて、トマトソースで赤く染まった麺を口に運ぶ。 モッツアレラチーズを巻き込んだパスタがプレリーの可憐な唇の中へ入り、チュルンと少しでた麺を吸い込む。 「……ッ!? こ、これは……」 プレリーがつぶやき、驚愕の色が瞳に宿る。いや、プレリーだけでなく周囲の人間すべてがそうだ。 口内から立ち昇るトマトスープの香り。舌を這い通る麺の柔らかくかすかに芯の通ったアルデンテの感触。 モッツアレラチーズとトマトで染まった麺が舌を刺激、かつ後味がすっきりしている。 プレリーの眼前に光が満ちて視界が白くなり、思わずつぶやいた。 「天国だ~~~~」 プレリーだけでなく、食した全員が同じ言葉を叫んだ。 プレリーの右隣りに座る恰幅のいい中年男性が皿を持ち上げる。 つられて左隣の品のいい老女も立ち上がった。 「これは……のどごしがよく、コシもある! いくらでも口にパスタを流し込める!!」 「後味もすっきり。それにしても滴るスープにどこかで飲んだような味が……昆布茶? そう、昆布茶で塩の量を少なくしているのね……」 感心したようにテンションが高くなっていくヒトたちを左右に置き、プレリーはさらにもう一口食べた。 その瞬間、プレリーの眼前が爆発して津波が襲ったような錯覚をする。 「すごい……トマトを使ったソースの味が残っているのに、しっかりモッツアレラチーズの味を際立ている。それだけじゃない。 素材一つ一つ……麺の味すらも私にしっかりと伝わる。すごい、まるで味のオーケストラよ!!」 食したみなの頭上から光が射しこみ、天国に昇るような気持ちを味わう。 その瞬間こそヒトが無防備になる。よって、闇の料理はヒトを支配する。もう天道の料理に彼らが美味いということはない。 癖になるほどの食の快楽。闇の料理人に伝わる秘法こそ、ヨミの切り札だ。 ヒトビトは味の快楽に味わわされ、しばらくは身体を流されるまま至福の時を過ごした。 ロイは目の前のパスタを味わい、手を震わせていた。 美味い、美味すぎる。もはや周りはヨミの料理に夢中だ。 天道は、光の料理人は勝てるのだろうか。 「ロイさん、大丈夫だよ」 驚愕に打ちひしがれるロイにエールの声がかかる。 彼女はヨミのパスタを口にしても、安心しきった笑顔をロイへ向けていった。 「天道は勝つよ、絶対」 落ち着き払ったエールの笑顔を前に、ロイは彼女の信頼の深さに驚いた。 ロイは天道を見る。勝って欲しい。料理界のためにも。 手に汗を握り、天道の料理を待った。 勝ちを確信して笑みを浮かべるヨミだが、天道は自分の番をただ静かに待つ。 微塵も動揺していない天道を前にヨミが絡んできた。 「白包丁を使わなかったことを後悔するがいい」 ヨミの自信満々の言葉に天道はフッ、と笑顔を浮かべる。余裕の態度にヨミが少しだけ不機嫌になるが、自分の勝ちが確定だと思っているのだろう。 ヨミはすぐ離れた。 「みなさん! 闇の料理人・ヨミシェフの料理は堪能いただけましたか? ならば次は我らがガーディアンの天才料理人、天道総司シェフの料理です! どうぞ!!」 司会であるウイエの合図に拍手があがり、天道の料理が配られていく。 配られた客に浮かれたような空気が流れ、司会のウイエがマイクを持つ。 「品目はあさりと魚介のペスカトーレ! 天道シェフの一番得意な食材は魚貝類です。これは楽しみ! それでは試食を始めてください!」 司会の誘導と同時にみなのフォークがバラバラに進む。 先程のヨミの料理に酔いしれている者もいるのだ。フォークの動きが遅いのも当然だ。 ヨミが勝ち誇ったように胸をはる。パクリ、とプレリーたちが天道のペスカトーレを口にした。 「うっ…………」 一瞬で静まり、周囲がうなだれる。その様子をみてヨミが口を出してきた。 「悲しいほどマズイのか? ならば俺の料理をお代わりさせてやろう。さあ、存分に……」 「「「うま~~~い!!」」」 会場がどよめき、一斉に叫ぶ。完成に地面が揺らいだようにも錯覚させた。 ヨミが驚き戸惑う。その中、天道が不敵に笑っていた。 「新鮮なあさりの味がとても濃い。それでいてしつこくなくあっさり。イカとエビもあさりに負けないで、口の中で弾けて味が染み込むわ……」 「具だけではない。エビとあさりのダシとトマトソースが麺に吸い込まれて舌が刺激される。麺との調和が絶妙だ!」 解説席の老女と中年男性が満足そうに麺を口に運んでいく。 プレリーはその中央で優雅に食事を口に運んでいった。ナプキンで口を吹きながら天道に微笑む。 「天道さん、相変わらず美味しいです。ありがとうございます」 「当然だ。俺は食べるヒトの笑顔のために料理を作っているのだから」 偉そうながら、真摯な態度が声色に現れていた。天道総司は料理を作ることに命を懸ける。それこそ仮面ライダーとして戦うのと同等なほどに。 プレリーたちはそれを知っているため、満足に頷いて食事を再開した。 そこに納得いかない男が一人いる。ヨミはキッチンを飛び越え、天道の料理を一つ手にとった。 「なぜだ……俺の料理の暗示は完璧のはず。これを超えるには俺の料理より美味くなければならない! 白包丁を使っているならいざしらず、ただの包丁……ッ!?」 ヨミは言葉の途中できる。口に運んだ天道のペスカトーレを味わい目を見開いていた。 震えるヨミに天道が近づく。 「どうだ?」 「……う、美味い。だがなぜだ? 黒包丁を手にした俺を……」 「包丁はしょせん、包丁に過ぎない。たとえそれがどんな銘を持とうがな。食材こそが味を決める。 例えばイカには醤油をベースにみりんと酒を加えたものをすりこんで保存がきいて美味しくなるように工夫している」 「それだけで、ここまで美味しくなるはずが…………」 「積み重ねだ。それらの積み重ねで俺の料理はヒトに笑顔をもたらすことができる。 お前のように至高の味を持って他者を動かすという考えもあるだろう。だが、持っている味をヒトに伝えることこそ、笑顔を見るためのコツだ」 「そんな甘い考えで!」 「ならば思い出せ。お前が始めて包丁をとった日を。始めて食したヒトの笑顔を見たときを」 天道が指をさすと、審査員からはぶられたヒトビトが天道の料理を口にして雑談する姿があった。 天道は審査を兼ねる観客だけでなく、見に来ただけのヒトビト全員分作っていたのだ。対し、ヨミは審査員分の五十食と予備を少ししか作っていない。 ヨミの胸に敗北感があふれ、うなだれる。やがて審査を終える太鼓の音が響いた。 どこまでも広がった青空のもと、勝者となったのは天道であった。 □ 「もういいの? ロイさん」 エールがそう尋ねると、すっきりした表情のロイがナップザックを背負って街の出入口に立っていた。 エールと傍にいる天道にロイは笑顔を向けてあっさりと宣言する。 「ああ、俺は決めたよ。ハンターになる」 「料理は続けるのか?」 「当然。料理人でなくても料理は作れる。ならばハンターとして鍛えながら、料理を身近なヒトにふるまって鍛えていくさ!」 ロイはそういって天道に右手を差し出す。 結局、闇の料理人のヨミは自分を曲げなかった。自分のやり方で、いつか天道を超えてみせる。 彼が宣言して行き先を告げず旅立ったのをみて、ロイも自分の道を決めたのだ。 「あのヨミが再挑戦をしたらどうする?」 「決まっている。成長したアイツを迎え討つだけだ」 「ハハ! 俺も挑戦するつもりだから、そのときは手加減しないでくれよ!」 天道は笑顔を浮かべ、当然だと答えた。ロイはその答えに満足する。 生きる伝説の勝負をみて、ロイは街をあとにする。 このときの経験から彼は仲間のハンターに料理を振るうことを趣味として見出した。 右手を上げてロイは歩く。行き先は風にきいた。 天の道。いつか超えてみせると己に誓い。 To be continued……
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岩肌が剥き出しになった地面に、風が吹いて砂埃が舞った。 遠くで機械が稼働する音が響いて僅かに地面が振動する。 晴れ上がった青い空の下、幼い兄妹のカルロとアロエは競争していた。 「待ってよ―、お兄ちゃん」 「ダメー」 ハハ、と兄である少年は活発な瞳を輝かせて答えた。 上下に青いジャケットズボンを着こなし、黒髪から汗が飛びる。 対して妹の方は眉を八の字にしかめ、息を切らせながら兄を追っている。 桃色のワンピースの裾と茶色の長髪が風でなびいている。どちらも八~十歳といったところか。 「ここに入っちゃ駄目だって、オジちゃんがいっていたじゃない」 「弱虫アロエ―。俺はオジちゃんなんて怖くないもんねー」 舌を突き出し、べぇーとアロエに告げてカルロは走る。 兄妹が訪れた鉱山は『幽霊鉱山』と呼ばれ、イレギュラーが跋扈する山だったのだ。 そう、一年前までは。カルロが首をあげて鉱山を見上げると、足が道を踏み外す。 「うわっ!」 「お兄ちゃん!!」 カルロは両腕をバタバタさせながら身体のバランスを取ろうとするが、無駄だった。 段差の激しい崖下へカルロの小さな身体が乗り出した。アロエが両手で顔を覆う。 落下する感覚にカルロは身を任せ、両目をつぶった瞬間背中に硬い感触が訪れた。 浮遊感とともに目を開くと、カルロを抱えて跳躍するアルマジロ型のレプリロイドがいた。 地面に着地するアルマジロ型のレプリロイドがジロリとカルロを睨む。 ウッ、と言葉を失っているカルロをよそに、アロエが嬉しそうに彼の名を呼んだ。 「スティールオジちゃん!」 「カルロ殿、アロエ殿、ここは危ないから入ってこないように言ったでござろう」 怒ったように告げるスティールエッジに、カルロは気まずそうに笑みを浮かべた。 笑ってごまかそうとしているのだが、目の前の尊敬する男には通じない。 スティールエッジの厳しくありながらも、優しさを秘めた黒眼を動かずに見つめていた。 「まったく、二人ともなんど申したと考えているでござるか?」 カルロたち兄妹に延々と説教をしながらスティールエッジは大通りを進む。 白銀のボディにイエローの線が入っている、非人型のフォルスロイドであるスティールエッジは目立ってしょうがない。 幼い兄弟たちの手をつないで歩く光景は一種異様であるが、騒ぎ立てるものはいない。 それどころか…………。 「よう、スティールエッジ。カルロまた幽霊鉱山にいっていたのか。お前のカアちゃん探していたぜ」 「やあ、スティールさん。今度ご馳走してくれたお茶のお礼をしたいのだが今暇かね? 仕事中? それは残念」 「おう、スティール! 今度の休みに力を貸してくれよ。力が強いヤツが必要なんだ。前みたいな喧嘩じゃないって」 むしろスティールエッジは慕われていた。思わずため息をつくが、スティールエッジの表情は柔らかい。 一人一人街の住民たちに丁寧に返しながら、兄妹の家へ歩みを再開した。 ここに来て一年。ここまで馴染むことになるとはスティールエッジ自身も思っていなかった。 スティールエッジは一年前の光景を思い出していた。 □ 最初に浮かんだ感想は、なんとも活気のない街だろうというものであった。 表通りにヒトの姿はなく、からっ風が埃を舞い散らしていた。 カラカラ、となる風見鶏がよけい街の侘しさを強調している。 スティールエッジはその原因である鉱山に一度視線を向けて、市長との待ち合わせをした建物へ入っていった。 アポを取っていたスティールエッジは応接間に案内され、十分ほど待たされた。 入ってきたそこそこに恰幅のいい中年が入ってくる。目には疲れが見えていた。 その男性にスティールエッジは直接用件を切り出す。 「この街には危険なものが埋まっている。是非とも、拙者にあの鉱山を任せていただきたい」 ちなみにこの用件、“あの男”の身分の一つを使って話を設けている。 ダブルホーンたちのように、現場近くのヒトビトに黙って作業を続けても文句はいわれはしない。 ただ、スティールエッジというフォルスロイドはどこまでも生真面目であった。 「その件についてはお任せいたします」 「かたじけない」 ゆえにあっさりと話が終わり応接間をでる。すると、ドアを開けた瞬間なにかが飛来してくるのをスティールエッジは目撃した。 手の平で受け止めると、視線の先には敵意を向けている少年がいる。 黒髪の活発そうな少年が空き缶を投げてきたらしい。 「こら、カルロ! お客さんになんてことを……」 「父さん、騙されるな! きっとこいつ、悪いヤツだ!!」 少年が叫ぶのを聞き、スティールエッジはキョトンとする。 “あの男”の目的から考えれば、少年のいっていることはあながち間違いではない。 「カル……」 「いや、構わないでござるよ」 スティールエッジは怒鳴りつけようとする市長を止めて、カルロと呼ばれた少年の前に膝を折る。 敵意に満ちた視線に微笑んだ表情のまま顔を合わせた。 「カルロ殿、この街は好きでござるか?」 「当たり前だろ! 最近イレギュラーが増えてこの街にみんなが寄り付かなくなった、っていっているけど絶対前みたいな街に戻る! お前なんかの好きにはさせないぞ!」 「そうでござるか」 カルロの言葉を受け止め、スティールエッジは頷いて立ち上がった。 少年の視線を背中で受け止めながらも、スティールエッジは止まらない。 道中、市長が声をかけてくる。 「申し訳ありません! カルロにはきつくいっておきますので……」 「それよりも市長、最近イレギュラーが増えたというのは本当でござるか?」 「……はい。ガーディアンやセルパンカンパニーに救援を求めようにも、通路をすべて無差別に襲いかかるイレギュラーにふせがれまして……」 ふむ、とスティールエッジは顎に手をやり、市長の瞳を覗き込む。 市長が不安げな表情をしているよそで、スティールエッジは破顔した。 「ならば、一週間以内に拙者がそのイレギュラーを整理してみせよう」 イレギュラーを一掃する。 スティールエッジがそう申し出たのはその場の思いつき、といってよかった。 スティールエッジはこの時点では生まれて間もなかった。 モデルHたちを積んだハイボルトらとは違い、モデル∨の欠片を動力源にした試作型である。 フォルスロイドは新しい技術であるため、改造されたハイボルトたちとは違い、スティールエッジは一から生まれた存在だ。 ゆえに知識と力はともかく、経験はなかった。スティールエッジは自分の行動が情というものからくるものだと、この時点では知らなかったのである。 「スティールエッジさん、イレギュラーの一掃をありがとうございました!」 「いや、市長。まだイレギュラーが固まる場所があるでござる。それに自分たちの任務を遂行するためでもあるから、お互い様でござる」 スティールエッジは機嫌のいい市長に答えながらも、内心冷ややかであった。 イレギュラーの大量発生は幽霊鉱山と俗称される山に、三つのモデル∨が埋まっているのが原因である。 スティールエッジが“あの男”の技術を使ってモデル∨の稼働を抑え、その間にイレギュラーを一掃しただけだ。 マッチポンプ、ともしも事情を知る者が存在すればそう後ろ指を指されてもしかたない。 ゆえにスティールエッジの心の中が晴れることはなかった。 「カルロ殿は元気でござるか?」 「ええ、あいつも活気が戻ってきた街にたいへん喜んでいます」 「それはよかった」 そう、スティールエッジの心は曇ったままだが、カルロが喜んでいるという言葉に少しだけ救われたような気がした。 そして市長とともに周囲を確かめようとしたとき、入ってきた女性からカルロたちがいなくなったと告げられた。 「絶対突き止めてやる!」 「危ないよ、お兄ちゃん」 小柄な身体を駆使して、誰にも悟られず幽霊鉱山に入ったカルロは指を立てて妹を注意する。 アロエは思わず口つぐんだが、相変わらず兄を咎めるような視線だ。 「アロエもあいつはおかしいと思うだろ。あんな姿をしているうえ、こんなところに用事があるなんて絶対裏がある。兄ちゃんを信じろ!」 一面では真実を捉えている言葉をカルロは告げて岩肌を登っていく。 途中警戒に当たっているメカニロイドをごまかしながら、発達した運動神経を駆使して進んだ。 ふと、カルロが後ろを振り返るとアロエが息を切らせながら追ってくる。 邪魔だからついてくるな、といっても聞きはしない。カルロはため息をついて岩に座り、妹を待つことにした。 すると、パラパラと細かい石がカルロに降りかかってきた。 鬱陶しげに腕で払いながら、妹を見るとカルロの後ろに視線を向けて口をパクパクさせていた。 驚いた表情に、相変わらず怖がりだと感想を抱きながらカルロは後ろを向く。 瞬間、カルロの表情が固まった。 全身が紫色の、体長十数メートルはある巨大なクモ型メカニロイドがカルロの頭上に存在している。 モデル∨の力を取り込んだスパイダリルの進化型のメカニロイドであった。 「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」 カルロがたまらず叫んで目をつぶった。アロエが「お兄ちゃん!」と叫ぶ声が耳に入るが、スパイダリル・ネオは止まらない。 八本あるうちの右前方に存在する脚を動かし、カルロを狙って貫こうとする。 カルロが身体を動かすまもなく、巨大な脚は振り下ろされた。 「お兄ちゃん!!」 アロエの悲痛な叫びが山に響く。スパイダリル・ネオの力によって地面が振動した。 兄は助からないのか。ペタリ、と両足をついた幼い少女は巻き起こる煙を虚しく見つめていた。 そのアロエの予想とは違い、カルロは生きて尻餅をついている。 スパイダリル・ネオの前脚を、刀で受け止める存在がいたのだ。 粉塵の舞い上がるなかで白銀の装甲が映えていた。 背や腕、脚を縁取る黄のラインが太陽光を反射する。 刀を持ってスパイダリル・ネオの脚を受け止めたのは、アルマジロの姿をしたフォルスロイド・スティールエッジであった。 スゥー、と息を大きく吸い込み、目を見開いてスティールエッジの怒声がスパイダリル・ネオを貫く。 「ハァッ!!」 スティールエッジがもつ日本刀が、蜘蛛の足を一本斬り飛ばす。 スパイダリル・ネオがバランスを崩して倒れ、スティールエッジはカルロを抱えてアロエの傍に着地した。 カルロをおろし、アロエを見るスティールエッジの瞳をアロエは覗き込む。 きっと怒っている。アロエはそう思ったが、スティールエッジの瞳は違った。 「無事でよかった……」 心底安堵した声色と、優しい表情をみてアロエは確信する。 このヒトはいいヒトだ。 アロエがそう思っていると知らず、スティールエッジは後ろをみて二人をいきなり抱え込んだ。 数瞬後、スティールエッジの背中の丸い装甲が爆ぜる。 火薬の臭いがアロエの鼻腔に届き、スティールエッジは顔を顰めて痛みに耐えていた。 「なにしてんだよ、あんた!」 カルロが取り乱したように問うが、スティールエッジはより二人を引き寄せるだけ。 さらに数回スティールエッジの背中で爆発音が響くが、彼は一歩も退かない。 「やめろよ、お前が傷つくだけじゃないか!」 「カルロ殿……君の言う通りでござる。あれは拙者の上司の仕業でああなった。 これだけでは償いにもならない……だけど、二人の命だけは守り通す!」 スティールエッジの宣言とともに、彼のもつ刀が電撃を帯びる。 スティールエッジが身体を回し、アロエとカルロに光線が当たらないように胸で受けながら刀を構えた。 全身を撃たれながらもスティールエッジは微動だせず、刀を頭部へと運んだ。 「ハァッ!!」 空気を吐き出すと同時に刀を袈裟斬りに振り下す。 電撃が鋭さを増して斬撃となり、光線ごとスパイダリル・ネオを縦に斬り裂いた。 沈黙したスパイダリル・ネオを前に、爆発が巻き起こる。 その凄さを前にしたアロエは言葉を失っている。カルロも同様だ。 スティールエッジは振り向いて、よく見ると傷だらけの顔のまま尋ねてきた。 「二人とも、怪我はござらんか?」 どこまでも穏やかで優しい言葉。 アロエは溜まらず、安心して泣き出してしまった。 この後、二人を市長夫妻のもとへ送り届けて温かく迎えられる。 言い出しっぺのカルロはもちろん両親に説教されたらしい。 この事件を通して、二人だけでなく街の住民たちと交流をもつようになる。 カルロとアロエの兄妹は特に懐いてくれた。 僅かな罪悪感を持っていたが、スティールエッジにとっては幸せな一年だった。 □ 天道総司は買い物袋をぶら下げながら、待機させていた赤いバイクへと視線を向けた。 人通りの少ない道路で異質な雰囲気を漂わせる自車を見つめ、思わずため息をつく。 買い物袋を後部座席に収めながら、天道は訊ねた。 「なんの用だ? 紅渡」 「今日は個人的に訪ねたいことがあったのできました」 世界とやらに付き合うつもりはない、と天道は思考する。 天道の守るべき世界は普通に暮らして普通に笑うヒトビトがいる日常だ。 ディケイドとやらを始末することで、自己を守ろうとする手前勝手な『世界』とやらではない。 「『世界』とやらの計画を俺に実行させたいというなら無駄だ」 「そうではありません。アナタはこのままでは消えてしまいますよ」 「それがお前に関係あるのか? ディケイドとやら以外に」 「僕にはなくても、アナタのことを大切に想っているヒトたちにはあるに決まっているじゃないですか!」 語気を荒くし、視線に怒りを込めた渡を見つめて天道は少し驚いた。 始めて渡という人間の感情を見た気がする。 もっとも、基本的に天道と接するときの渡は、ボロを出さないように必死なだけだったのだが。 その仮面を脱ぎ捨てて、人間とファンガイアを共存させて兄を守った心優しき青年は心の中を明かす。 「このまま消えてしまっては、アナタのことを慕っているエールさんや、ガーディアンのヒトたちがかわいそうだ。 ディケイドなんて僕もどうだって……よくはないけど。アナタの場合はその前にすべきことがある。それを放り出すのは許せない」 だから決着をつけろ。渡の瞳はそういっていた。 なんのことはない。紅渡という青年はお人好しなのである。 天道はここまで言われて始めて気づいた。加賀美のような馬鹿だ、と天道の表情が力を抜く。 「……大丈夫だ。ちゃんとあいつらとの別れは告げる」 「別れ? ここにいることだって……」 「それは無理だ。俺は世界を破壊した。これを見ろ」 天道がグローブを脱ぐと、粒子が手から昇っていた。 渡が天道の手を見ると悲痛な表情をしている。天道の様子に心を痛めているのだろう。 「気にするな。こうなるのは覚悟の上だ」 「諦めないでください。きっと手が……」 「大丈夫だ。俺は自分の不始末を片付けるまではもつ。それよりも渡、すまない」 天道の謝罪に渡が「え?」と疑問を口にする。この謝罪は渡に対して冷酷な相手だと考えたことによるものだ。 渡が心配しているのは世界よりも、天道がここで作った仲間のこと。それがとても嬉しかった。 「それに、頼みがある。いいか?」 「僕に出来ることでしたら」 そう言われ、思わず天道は「お人好しめ」とつぶやく。 渡が鼻白んでいたが、天道の言葉に嫌な響きはなかった。 天道が渡へと向き、自分の望みを告げ始めた。 ドクターCLとの出会いから一週間は経っていた。 あれからプレリーに変化があったかと問われれば、より精力的に仕事に取り組むようになった、と周囲は口を揃えるだろう。 周りはいつものプレリーよりも気合が入っていると考えているが、事情を知るものはそうはいかない。 ガーディアンベースの廊下にて、ストローから飲み物を飲んでいるエールも事情を知る者の一人だった。 「プレリー、身体を壊さないといいんだけどな……」 「プレリー様がどうしたって?」 エールは横から声をかけられ、ギョッとして振り向いた。 そこには金髪のクールな青年、アランが立っている。彼はエールと同じく、訓練を終えたばかりのようだ。 「また厄介ごとか?」 「えーと……そのー……」 エールらしくない不明瞭な態度に、アランは納得がいったように数度頷いた。 エールの傍を離れながら会話を続ける。 「また話せないような事情があるのか。いいぜ、話せるようになってからで」 「うん、ありがとう。アラン」 「いいっこなしだ」 そういって出て行くアランの背中に拝み倒し、感謝を示す。 初代司令官が擬態されただけならともかく、精神もそのままに敵として存在する。 それはガーディアンのメンバーたちにとって衝撃的な真実にほかならない。 そう判断したプレリーとフルーブによって、ドクターCLの存在は伏せられることになった。 「なんだかなー」 納得いかないのはエールである。理屈ではわかるのだが、どこか引っかかりがあったのだ。 自分が入院した理由を伏せられたときも、周りは同じことを思っていたのだろうか。 『まあまあ。こればかりはみんなを混乱させるだけだからね』 「それはわかっているけどさ。ところで、モデルZは」 『しばらくの間そっとしておこう。彼は特に彼女へ思い入れが大きかったから』 そうか、とエールは沈黙している赤いライブメタルへ想いを馳せる。 彼には彼の事情もある。エールは天井をみて、もやもやした気持ちを抱えていた。 プレリーはモニターを見つめて眉をしかめていた。 金色の髪が後ろに流れる赤い船長服のガーディアンの二代目司令官は、自身の姉を擬態したワームとの出来事を胸の底に押し込んで、仕事に没頭していた。 少なくとも忙しい間は嫌なことは忘れられる。プレリーは新しいモデル∨の反応のグラフとイレギュラーの事件がまとめられたファイルを開く。 めぼしいところは今まで探索してきた。天道とエールの活躍もあり、候補地も減っている。 「後はここよね……」 プレリーはある一エリアへ視線を向けて嘆息した。グラフが示すモデル∨の反応は異常なのだ。 複数機のモデル∨が埋まっている可能性が高い。なのに今まで放置していたのは、イレギュラーの発生報告が一度もなかったからだ。 モデル∨の反応を見つけたときは驚いたのだが、街へ調査員を向かわせるとなにもつかめず帰ってくる。 (これ以上は実際向かってみるしかないか……) プレリーはそう考えて現場に赴くことを決めた。 オペレーターに天道とエールを呼んでくれるよう頼み、プレリーは頭に勝手にわいてくるドクターCLの姿と言葉を頭を振って追い払った。 □ 「それで、本当にここにモデル∨の反応があったのか?」 「ええ、間違いはない……はずです」 天道が周囲の穏やかな光景に尋ねると、プレリーが自信なさそうに頷いた。 今までは市長に調査の申し入れを提案してきたのだが、平和な街だといわれやんわりと断られていた。 ならば、あまり正体の知られていないガーディアンの司令官であるプレリーと天道、そしてエールが調査も兼ねてやってきたのだ。 服装もガーディアンの証であるものはすべて外しているため、観光客にしか見えない。 もっとも、プレリーの同行は半ば彼女のわがままでもあったのだが。 「天道、プレリー。ジュース買ってきたよ」 「ありがとう、エール」 頼んではいないのだが、こういう気遣いができるのはエールのいいところだ。 天道はそう思い、ジュースを受け取りながらプレリーを横目で見た。 食生活は天道のおかげでよくなっているのだが、明らかに寝不足とわかるほど自分を追い詰めている。 ちなみに食生活に天道が口酸っぱく干渉してきたため、若いメンバーには煙たがれているが、フルーブなどは感謝をしてくれていた。 まあ、それはさておき。天道は確かに妙だと思う。 この街の中央に存在する鉱山はただならぬ雰囲気をまとっている。 なのにここに居るヒトたちはとても平和に過ごしていた。 それはいいことなのだ。特に天道が口を出す必要もないだろう。 「ここは外れではないのか?」 「……まだわかりません。もう少し調べてみましょう」 プレリーの表情が曇る。彼女がドクターCLのことを考えているのは一目同然。 もともとオーバーワーク気味だったのだが、彼女の姉に擬態したワームと出会ってからは特に酷い。 睡眠時間を削っているようだが、他人がいっても聞かないだろう。どこかで緊張の糸が切れて痛い目をみなければいいのだが。 「そっか、じゃあプレリー、アタシと一緒に行こう」 「エール、これは……」 「わかっているって、調査でしょ? 天道、そっちは任せていいかな?」 エールが尋ねてくるが、天道の答えは決まっている。プレリーを気遣っての行動だ。 天道は「任せろ」と告げて、エールがプレリーを引っ張っていく。 天道は一人静かに踵を返した。 う~ん、と声が漏れながらエールは背を伸ばす。 日差しが温かく、活気が溢れる街のヒトビトの声が聞こえてくる。 平和で穏やかな街だ。エールはプレリーには悪いが、ここで見つかったモデル∨の反応が外れであって欲しいと願っていた。 戦闘になれば巻き込まれるのは力のない彼らだ。 十一年前のイレギュラーの起こした災害に巻き込まれた過去を持つエールとしては、それだけは避けたい。 守るための力を求めたといっても、エールはもともと平和を愛する少女だ。 争わないですむならその方がいい、とつねづね考えていた。 ベンチに座るプレリーに近づき、なにもないね、と話しかける。 「そうね……本当に平和で……。街の調査は今日で切り上げて、明日は鉱山に向かってみましょう」 「うん。けどまあ、こっそりいかないとね。ついてこれる?」 「エール。私はこう見えても、ガーディアンの司令官ですからね」 プレリーがクスリ、と笑ってエールに返事する。ようやくプレリーが笑った、とエールは喜んだ。 プレリーは可愛いのだから、もっと笑えばいいのにとエールはつねづね考えている。 とはいえ、姉に擬態したワームと出会えばそんな余裕もなくなるのが普通だとは思うのだが。 二人が和んでいると、道路の一角が騒がしくなる。なんだろうか、とエールたちが視線を向けた。 エールは映った光景に唖然として、ライブメタルを掴んで地面を蹴った。 「みんな、そこをどいて! ダブルロックオン!」 エールが叫び、赤い装甲をまとうロックマンゼクスへと変身を終えて跳躍する。 人だかりの中央、白い装甲のアルマジロ姿のフォルスロイドへと剣先を向けた。 「アナタ……プロメテたちの仲間のフォルスロイドね!」 「いかにも。そなたは……」 フォルスロイドが口を開く前に、エールに対してブーイングが発せられる。 唖然としているエールへと、次々ヒトビトが文句をいってきた。 「アンタ、いきなり現れてなんだ! 危ないじゃないか!」 「スティールさんにそんなものを向けて、何様のつもりだい!」 などと非難がエールへ向けられる。始ての出来事にエールが戸惑っていると、スゥーッとフォルスロイドが息を吸った。 「喝(カッ)!!」 極大なフォルスロイドの声量にエールだけではなく、周囲のヒトビトも耳の機能が麻痺をする。 コホン、とフォルスロイドが咳払いを一つして、周囲を見渡した。 キーンと鳴る耳を抑えながら、エールはフォルスロイドを睨みつける。 対して、フォルスロイドの方は平然としていた。 「皆さん、彼女は拙者の客でござる。暴言は謹んでいただけぬか?」 そうフォルスロイドが宣言すると、周囲のヒトビトは戸惑いながらフォルスロイドとエールを交互に見ている。 なにがなんだかわからないエールに、聞き覚えのある声が届いた。 「エール、変身を解け。そいつはここのヒトたちを巻き込むような真似はしない」 「天道……?」 エールが疑問符を浮かべながら振り向くと、堂々と近寄ってくる天道総司がいた。 彼がエールの傍に立ったとき、エールは忠告に従って変身を解除する。 「わざわざ足を運んでいただき感謝いたす。拙者はモデル∨搭載型試作フォルスロイドが一体、スティールエッジ・ザ・アルマジロイド。 エール殿、天道殿、そなたらの武勇伝は聞き及んでいる。ひとまず、拙者の基地へきていただけないでござるか?」 スティールエッジの提案に天道が迷わず同意している。 相変わらず罠に飛び込むのを迷わない性格だ。呆れつつも、エールは後をついていく決意をする。 エールはこのとき避難してもらおうと思っていたプレリーが、ついてくる気であったことに気づいていなかった。 フォルスロイドの部屋と聞かされていたゆえ、どこか偏った部屋なのかと思っていたがそうでもなかった。 エールたちが通された部屋は畳が敷かれ木板でできた壁の、飾り気のない質素な和室であった。 通された部屋にて三つの座布団が敷かれ、その上にエールたちは座っていた。 エールとプレリーは始めての和室で足を崩していたが、天道は慣れているのかピシッ、と背を伸ばして正座していた。 そのエールらに、お茶を配ってスティールエッジが対峙する。 なにを企んでいるのだろうかとエールは警戒していると、天道とプレリーがお茶に口を出した。 「って、あんたらはもうちょっと警戒しなさいよ! 毒が入っていたらどうするの!!」 「ご、ごめんなさい、エール。つい、喉がかわいちゃって……」 「落ち着け、エール。なにか仕掛けるつもりならとっくにやっている。ふむ、いい茶葉を使っているな」 「拙者の趣味で取り寄せてもらっているのでござる」 「茶の温度も高すぎず低すぎず。茶葉のうま味を引き出している。けっこうなお点前だ」 「褒めていただけるとは……感謝いたす」 スティールエッジが礼を告げるのを横目に、エールは変な雰囲気に置いてきぼりを食らわされた。 たまらず、エールは核心に迫った。もともと細かいことは苦手であったのもあるが、現状はとても不可解なのだ。 「それで、アタシたちをここに呼んでいったいなんの用?」 「……それは私も聞きたい……」 突如聞こえた、知っている声にエールが思わず立ち上がって振り向いた。 そこには白いアーマーに横に広いヘルメットを装着した、砂時計型の女性らしいラインを持つ敵がそこにいた。 エールは思わずその名を呼ぶ。 「パンドラ!? アナタ……どうしてここに? ううん、それはどうでもいい。モデルHたちの居場所を吐いてもらう!」 「そういわれても……もう私たちの手元にはない……。彼らは新しい適格者の……もと……」 エールが思わずライブメタルを掴んで構えようとするが、天道が手を掴んで制止する。 スティールエッジもパンドラ相手に首を振り、パンドラはそれに従って杖を収めた。 「スティールエッジにここで戦うつもりはない。その意志に従ってやるべきだ」 「つくづくかたじけない。それで天道殿。お主に申し出たいことがある」 スッとスティールエッジが紙を取り出してきた。紙に注目すると、手紙であるらしいことに気づく。 いまどき紙の手紙も珍しいが、直接相手に渡すことにもエールには不可解である。 しかし、天道には意味は通じているようで、その手紙の意をつぶやいていた。 「果し状か」 「さよう。時間、場所の転送座標は手紙に記入しておいた。拙者と一対一、正々堂々と勝負していただきたい。 お主が勝てば我らの本拠地を明かし、モデル∨を引き渡そう。拙者が勝ったのなら、この地には手を出さないで欲しい。返答はいかに?」 「俺は逃げはしない。丁重に承ろう」 「かたじけない」 天道があっさりと引き受け、エールが目を見開いて視線を向ける。 プレリーもお茶を抱えたまま、ポカンとしていた。 「……勝手に決めたら……駄目……」 「このときのためにあらかじめ拙者のやり方はプロメテ殿と乃木殿の同意を得ている。 もとより拙者はなにか仕掛けを持ってはめるのは向いていないゆえ。理解して欲しい、パンドラ殿」 「確かに……プロメテは好きそう……」 パンドラの無表情な顔に、呆れが含まれたのはエールの気のせいだろうか。 エールも天道を咎めるように視線を向ける。もっとも、天道は相変わらず平然としているが。 「エール、プレリー。おばあちゃんがいっていた。たとえ敵でも礼を尽くしている相手は無下にしてはならない、とな。 特に相手が戦いを挑むというのなら、迎え討つのが男というものだ」 「聡明な祖母であったようだ。アナタのような方を育てたことを尊敬いたす」 「気にするな」 もはやエールに言葉はない。二人で話を進め、決闘は決定事項となったようだ。 「立会人にこちらは我が友、黒崎殿を指定したい」 「そうか、ならばこちらはエール。頼む」 「立会人ってなに?」 「居合わせてそれぞれ不正がないように見張るだけだ。今回は見物だけでよさそうだがな」 「買いかぶりでござる。……どうした? パンドラ殿」 くい、とスティールエッジの腕を引っ張っていたパンドラが、周囲の視線が集まるのを待っていた。 パンドラは無表情にルビーのような赤い瞳を周囲へ向けながらボソボソと提案を始める。 「その立会人……複数いてもいいなら……私もやる……」 「構わない」 スティールエッジが返事を戸惑っている間に、天道が了承をする。 エールはどうにもややこしくなってきた、と思い始めていた。 パンドラを相手にさらわれたモデルHたちの居場所を聞き出したいが、どうにも手出し無用の雰囲気だ。 エールはしかたなく、天道に任せることにした。 「この街はスティールエッジに守られている?」 「ああ、俺がお前たちと離れて調査をしたところ、あの街は一年前まではイレギュラーが発生していたらしい。 ガーディアンやセルパンカンパニーに助けを求めれないとき、街を救ったのはあのフォルスロイド、スティールエッジということだ」 「通りでモデル∨の反応はあったのに、事件は起きていなかったということですね。なるほど……」 ガーディアンベースへと戻る道筋ながら、天道はエールとプレリーにこの行動の意味を説いていた。 エールはフォルスロイドであるスティールエッジを信用しきれていないが当然だ。 たいがいが人格破綻者であるフォルスロイドを相手にした彼女が、スティールエッジを警戒するのも無理からぬこと。 天道も実際に顔をあわせるまでは街を守る“ふり”ではないかと疑っていた。 それは実際会って話をした今では杞憂だとわかったが。 「エール、あいつは信用できる。心から街を守る気でないと……今から俺を襲う子供のように住民に慕われない」 「食らえ! スティールオジさんに手を出させ……うわうわっ!」 「こういうふうにな。坊主、怪我はないか?」 天道を襲おうとして、つまずいて転んだカルロを丁寧に助けて天道が声をかけた。 後ろからは申し訳なさそうに妹が謝ってくる。 天道が様子を見ると、エールは疑うのが馬鹿らしくなっている顔になっていた。 スティールエッジは去っていった天道たちを見送った後、パンドラにお茶を出して一息つく。 パンドラはそういった仕草もスティールエッジは様になるものだ、とある種感心していた。 「……本当に真正面から……戦うの?」 「拙者はそれしかできぬ」 「“あの男”が作ったのに……アナタは本当、まっすぐ……」 「生まれはさほど重要ではござらん。大切なのは生きざま、と拙者は思う」 そういうところがフォルスロイドらしくない、とパンドラは感想を持った。 フォルスロイドはライブメタルを動力源とするため、性格が尖っていることが多い。 その中でこの穏やかで心優しいフォルスロイドは例外といってもいいものだろう。 「褒められるものでもござらん。結局のところ、拙者は不器用なのをごまかしているだけだ」 「あの子たちは……そう思っていない……」 パンドラはここにくる際、交流があった兄妹のことをツッコンだ。 魔女のお姉ちゃん、と呼び慕うカルロとアロエの兄妹は嫌いではない。 だからこそスティールエッジに問うべきことがある。 「でも……“あの男”の目的を知っている……?」 スティールエッジは「無論」と返答してさらに続ける。 その顔にはなにかを決意している様子が浮かんでいた。 「世界を破壊するのが“あの方”の目的なのは充分知っている。されど、パンドラ殿。拙者はこの世界が好きだ」 「……今やっていることは……アナタが後悔すること……」 「うむ、だからこそ拙者はこの身を懸けてやることがある。そのためには、天道殿という大きな壁を乗り越えるくらいでないと、拙者にやる資格はない」 それは反逆宣言に近い。でもパンドラはなにも言わない。 彼は世界を愛しているがゆえに、たとえ生みの親でも“あの男”を否定するだろう。 パンドラは違う。彼女は憎しみを持って、“あの男”を認めていなかった。 だからだろうか。目の前のフォルスロイドが少しだけ羨ましかった。 しばらくして天道がカルロ兄妹を連れて来た。 決闘の話を聞いて天道を不意討ちしたということだ。 笑い話。スティールエッジは天道に礼をいって、兄妹を家に送った。 パンドラが少しだけ兄妹の相手をしたが、スティールエッジはそのときの穏やかなパンドラの顔を知っていた。 □ 夜も深まり人気のない鉱山にて、足を踏み入れる影が一つあった。 雲が切れて月光が姿を照らすと、淡い光の中紫の装甲をまとったロックマンVAが街を見下ろしている。 幽霊鉱山、という俗称に相応しい不気味さを漂わせる場所で、黙したままロックマンVAは崖を降りていった。 「チッ、静かだな」 『俺がそうした。今見つかっては面倒だ』 ロックマンVAことペンテの不機嫌そうな声を受けながらも、モデルVAは相変わらず。 モデルVAによって監視機械の死角をついて潜入に成功したのだ。 戦いを避けるモデルVAにペンテは多少の不満を持っていたが、近いうちに天道たちと戦える機会があるのを知っている。 ここで騒ぎを起こせば天道たちと戦う機会を逃す可能性があるため、ペンテはモデルVAに従っていた。 「なんでこんな面倒な真似をしているんだ?」 『なに。最近俺を呼んでうるさい奴を黙らせに向かっているだけだ』 フン、とペンテは鼻を鳴らして曲がりくねった通路を歩く。 ロックマンの驚異的な身体能力がなければ、バランスを崩して転がり落ちていっただろう。 もっとも、ペンテの場合は素の場合も運動能力は高いため、あっさりと通り抜けそうだが。 通路の先を金網が塞いでいるが、ペンテは蹴って跳ね飛ばした。 「あれか、目的の奴は?」 『フン、始めてか? あれがモデル∨……すべてのライブメタルの元祖だ』 「図体がでかすぎる。生意気だ」 円環状の通路に、中央に三機の勾玉型の形の巨大な機械、ライブメタルモデル∨がそこに存在していた。 モデルVAは始めて目にしたモデル∨の感想が「生意気」のペンテに思わず吹く。 「それで、あれになんの用だ? モデルVA」 『なに……少しうるさくてな。黙らせる』 そういってモデルVAが宙に浮く。モデルVAの額が輝いて、光がモデル∨に吸い込まれていった。 モデルVAが細かく震える。同時にモデル∨から触手がペンテに巻き付いてきた。 ペンテは払おうと腕を上げるが、モデルVAが静止する。 『身を任せろ。直接乗り込む』 面倒な奴だ、とペンテがつぶやくのが耳に入るが、モデルVAは構わない。 一週間前から脳裏にうるさい声が響いてしょうがなかった。だから話をつけにいく。 強制的に付き合わされることになったペンテは呆れているが、モデルVAは見ていない。 割れたモデル∨の中央部に、ペンテはモデルVAとともに無音で入り込んだ。 モデル∨がしばらく瞬き、やがて収まる。いつもと変わらない静寂が訪れた。 □ 決闘の日は訪れた。 エールは指定の場所に天道と向かうと、すでに立会人として登場していたパンドラと黒崎を背後に、スティールエッジが佇んでいた。 天道が「ここでいい」とエールに告げて先に進む。エールは天道の背を見届けながら、ため息をついた。 相手であるスティールエッジは優しい性格だ。その相手に向かって天道がどこまで本気なのか、エールはつかみそこねている。 どうも今回は緊張感に欠ける。プレリーも来たがっていたのだが、天道が止めていた。 そんな必要もない、とエールは思ったのだが。 「わざわざ足を運んでもらって申し訳ない」 「気にするな。黒崎、俺たちの決着は……」 「わかっています。今は我が友、スティールエッジの番です」 そういって黒崎があっさりと引き、スティールエッジが立ち上がって前にでた。 スティールエッジは砂時計を取り出し、中央に置く。 数メートルほど後退したスティールエッジが、黒塗りの鞘に収まった日本刀を腰だめに構えた。 天道も両足を開き、ベルトへとカブトゼクターをセットする。 「さて、準備はいいな?」 「応」 カブトの問い掛けにスティールエッジが応え、カブトも鎧を脱いでライダーフォームへと変わる。 キャストオフで飛びかよう装甲は綺麗にスティールエッジやパンドラたちを避けていく。 カブトがクナイガンを頭上に持ち上げ、自然体の構えを保っていた。 同時にエールの肌が粟立った。二人のぶつける剣気が冷たい風となってエールの肌を撫でたのだ。 (さっきまで二人とも……仲がよさそうだったのに?) エールが疑問を抱いていると、砂時計の中の砂がすべて落ちる。 刹那の間、カブトとスティールエッジの地面が爆発しクレーターを作る。 ギィン、と盛大に刃と刃のぶつかり合う音が雷鳴のように轟いた。 殺気が爆発し、嵐となって決闘の場に吹き荒れる。必殺の一撃。互いに急所を狙う容赦無さ。 談笑していた姿を二人は根こそぎ削り取って、殺し合っていた。 エールはごくり、とツバを飲み込む。 (勘違いしていた) 緊張感に欠けることなどない。そして天道の忠告通り、プレリーを連れてこないで正解だ。 あまりにも天道が軽く引き受け、スティールエッジの人柄もあっていつもと違い凄惨な戦いにならないと思い込んでいたのだ。 それは間違いだと、二人が剣気をぶつけた今理解する。 天道もスティールエッジも、自分の命以上のものを懸けて戦っている。その戦いが凄惨にならないはずがない。 鍔迫り合いを繰り広げる二人の背中は、何倍も大きく見えた。 この戦いは今までのフォルスロイドたちとの戦いを上回ることになりかねない。 だから、エールや黒崎のような戦えるものを立会人に選んだのか、と気づく。 巻き込まれても自衛できる者のみ、この戦いを見届ける資格があったのだ。 ごくり、と緊張のままツバをもう一度飲み込む。命以上のやりとりを繰り広げる二人を前に、エールはただ目を逸らせずにいた。 To be continued……
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人通りの少ない道で、砂埃が風に舞い上がる。 エールの艶やかな黒いショートカットの髪が揺れた。 地面の爆発が起きたところは黒く焦げて、エールの鼻に硝煙の匂いを届ける。 スズムシを模した茶色のワームを前に、エールは致命的な隙を晒していた。 『エール、変身しろ!』 モデルZの叫びが昼下がりの道路で響いた。 エールもその行為が正しい、と頭で理解しているのだが動けずにいる。 やがて茶色のワーム、ベルクリケタスワームが僅かに身動ぎをした。 エールが反応してどうにかライブメタルを掴むが、ワームの体表が水面のように飛沫を上げて見知った青年の姿に変わる。 柔らかい金の髪に、黒ぶちメガネ。タレ目気味の目に筋が通った鼻。 柔和な顔立ちは今はしかめ面を作っていた。 彼の右腕が動き、エールが反応する間もなく眼前にサソードヤイバーが差し出される。 「どういうつもり……? ジルさん」 「違う」 ジルはエールの言葉を否定する。いったいなにを否定しているのだろうか。 ジルはサソードヤイバーを前に差し出したまま、搾り出すようにして告げた。 「エールさん、僕はジルじゃない。ジルを殺し、そのすべてを簒奪した……ただのワームだ」 苦しそうな声が、エールの耳に届く。彼はなぜこんなにも辛そうなのか。 エールには理解出来なかった。 □ コーカサスとカブトの拳がぶつかり、衝撃波に川の水面が波打つ。 反動で二人が同時に離れ、橋の上で踏ん張って互いに睨みつけた。 コーカサスの瞳に光が宿る。カブトは仕掛けてくるとわかり、警戒をして構えた。 だが、その構えも無意味。黄金の影がカブトの拳をすり抜け、腹部に重い一撃を与える。 後方に数メートル吹き飛ばされ、カブトは片膝をついた。 加賀美と二人がかりでも圧倒されたのだ。一人で勝てる道理はない。コーカサスの瞳がそういっている。 愚かなことだ、とカブトの仮面の下で微笑んだ。コーカサスの肩部から、パキッという硬い音が鳴る。 「ムッ……」 コーカサスの動きが止まる。右のアーマーの先端部が欠けた。 コーカサスは落ちる欠片を見届け、カブトへとゆっくり視線を移動する。 「なるほど。アナタも強くなった、ということですか」 「おばあちゃんが言っていた。俺の進化は光より速いとな」 カブトは立ち上がって天を指し、コーカサスに余裕たっぷりと告げる。 もっとも、カブトには珍しくこれは虚勢だ。コーカサスは強い。 ハイパーゼクターがないとはいえ、単純な戦闘力ならカブトの上をいく。 とはいえ、ハイパークロックアップのない今こそ倒せる数少ない機会なのだが。 「ところで、一つ聞きたいことがある」 「答える必要がありますか?」 「この街には二匹のワームがいるだろう?」 カブトはコーカサスの拒絶を無視して、疑問をぶつける。 コーカサスは無言のままだが、なにより雄弁な答えである。充分だ。 コーカサスの構えに力が入る。本気でくるのか。カブトはカウンターの体勢を整えた。 二人の間につむじ風が舞う。近くの街路樹の葉がこすれあい、風がやんで二人が動く。 『Rider kick』 『Rider beat』 カブトの足が、コーカサスの拳が、タキオン粒子の電流をまとってぶつかり合う。 二十トン近くの衝撃のぶつかり合いに橋がひび割れて、水面が波立つ。 力が拮抗すること数秒。衝撃は収まり、中心の二人は拳と蹴りをぶつけたまま制止した。 やがてゆっくりとそれぞれの足や腕をおろし、先にコーカサスゼクターが離れた。 「なんのつもりだ?」 カブトの姿から戻り、天道が尋ねる。それに対し黒崎は踵を返した。 橋を超えたあたりでピタリと止まり、振り向かず先程の問いに答える。 「なに、ここで決着をつける気をなくしただけです。また近いうちに会いましょう」 そう言って去っていく黒崎の後ろ姿を、天道はただ見ているだけであった。 コーカサスとの戦闘でダメージが大きい。黒崎の姿が見えなくなったと同時に天道は膝をついた。 大きく喘ぎ、キッと前を睨みつける。必ず倒す。天道の瞳はそう言っていた。 『エール、遠慮することはない。こいつは人を殺しているはずだ。倒すんだ』 モデルZの冷静な声にハッとなって、エールは距離をとる。 サソードヤイバーはジルの手にあった。ライブメタルを取り出し、 ―― エールちゃん。 ジルの母親であるエリファスの顔を思い出して、動きが止まる。 『どうした? エール!』 モデルZが急かすが、敵が目の前にいるのだ。当然であろう。 ただ、理屈ではわかっているのだが、エールの心が彼を討つことを拒否している。 なぜだろうか。理由がわからない。困惑するエールの前で、ジルが先に動いた。 ジルは見事にエールの前で土下座する。突然の行動にエールの混乱は深まるばかりだ。 『なんのつもりだ?』 「…………僕はワームだ。殺されてもしかたないし、エールさんになら殺されてもいい。だけど……」 エールの代わりに尋ねたモデルZへジルは答え、柔和な顔に決意を乗せてあげた。 必死にすがる人間のように真剣な表情が、そこにはある。 エールはゴクリ、と生唾を飲んだ。いつの間にか、手には汗が握られている。 「三日だけ、三日だけ待って欲しい! その間に死ぬ準備を整える。だから……」 『その間にヒトを殺さないとも限らないだろう?』 モデルZにバッサリと切り捨てられて、ジルは言葉を詰まらせる。 なにしろ昨夜襲ったのは彼自身だったのだ。警戒し、言葉を疑うのが普通だ。 「信じてもらえないのはわかっている。けど……」 「いいよ」 必死に懇願するジルに、エールは思わず答えてしまった。 望んだ展開のはずなのに、ジルが目を見開いてエールを見ている。 モデルZの咎める視線を無視して、エールはもう一度告げた。 「わかったからいってよ! 絶対……絶対三日後には許さないから……」 我慢出来ずジルへ理不尽な怒りをぶつける。 傷を負わされたから正当な怒りのはずなのだが、エールの感情はそこからきたものではない。 もっとも許せないこと。それはエリファスがどうあっても悲しんでしまうことだ。 「エールさん……」 ジルはただ一言、感謝するようにつぶやいてエールに礼をいい、走って視界から消えた。 いつの間にか、地面にはサソードヤイバーが放置されている。 『エール、大丈夫?』 モデルXが心配そうに声をかけるが、エールは頷き返すので精一杯だ。 頭がごちゃごちゃして考えがまとまらない。 「モデルX、モデルZ。このことは誰にも話さないで……」 『エール……』 「お願い。アタシも……三日だけ整理する時間が欲しい」 エールの悲痛な願いは、モデルZの言葉を失わせる。 地面に置かれたサソードヤイバーを回収し、エールは人気のない大通りから離れた。 □ ガーディアンの拠点へと戻ったエールは、心配してくれた仲間に謝罪して回った。 探索チームのみんなはエールが無事であることに喜び、あっさりと許す。 気持ちのいい彼らの態度が、今のエールには痛かった。一匹ワームを逃がしたのだ。 独断専行の上、自分の都合で危険な可能性を放置した。冷静になればどう考えてもエールに非がある。 それでもどうしても、エールにはジルを殺せなかった。 「サソードは使えそうか?」 「天道……」 エールは姿を見せた青年の名前をつぶやく。いつもの余裕を見せた態度で尋ねてきた。 サソードヤイバーを奪ったことを天道に報告したときに、彼自身からもう一匹ワームが存在していることを伝えられた。 伝えられた当初エールは動揺したのだが、天道はワームがもう一匹いる事実に驚いている、と解釈してくれたようだ。 騙しているみたいで、エールの罪悪感が増している。 「うん、サソードゼクターは自分の意思を取り戻した。モデルXと一緒に使えば、ドレイクゼクターのように戦えると思う」 「そうか」 天道が頷いて微笑む。妙な反応だ、とエールは思ったがなにも言えない。 ふと、脳裏にジルの姿が浮かぶ。ワームについては天道はプロフェッショナルといってもいい。 一つ尋ねてみることにした。 「天道、一つ聞いてもいい?」 「なんだ? いってみろ」 「もしも……もしもだよ? ワームが擬態して記憶やその人のすべてをコピーして……心までコピーしたとしたらどうする?」 エールは天道の顔を見上げて、真剣な眼差しを向けた。 天道の表情は相変わらず。冷静なまま彼は口を開いた。 「倒す」 天道は短く断言する。そこに迷いも淀みもなく、ハッキリと。 エールは少しだけ納得がいかなかった。理屈ではない。感情がだ。 「その人に大切な人がいて、前と変わらない生活をしていても?」 「当然だ。擬態された人間も、その周りの大切な人たちも……なによりワームにとってもそれ以外救う手段はない」 「どうして?」 エールの問いに、天道はどこか遠くを見つめた。 なにか後悔するような、なにか失ったようなそんな表情だ。 「エール、死んだ人間は生き返らない。決してな」 それ以上、天道がなにか喋ることはなかった。 エールにはまだ理解出来ない。天道が伝えたかったことも、彼が味わった過去も、なにもかも。 なにより、このときの天道はエールにはなにも知らないままでいて欲しい、と願っていた。 ワームがまだ残っている、ということで調査は続行された。 殺人事件は起きていないものの、いまだ事件は未解決扱いだ。 エールも街に繰り出し、ガーディアンとして調査を続ける。 商店街の通りを歩いて、事件について訪ねようとしたとき背中から声をかけられた。 「エールちゃん、やっほー!」 「エリファスさん」 白い服に柔らかい金髪のショートカット。車椅子で生活する女性。間違えようもない。エリファスだ。 エールは今はもっとも会いたくない相手に会ってしまった。 事情はどうあれ、エールは彼女の大切な息子を殺すことには変りない。 殺す、と思考した瞬間胸がチクリと痛んだ。エリファスの車椅子がエールの傍に寄り、顔を覗きこむ。 「エールちゃん、もしかして具合が悪い?」 「え? そんなことはないよ」 「そう? 顔色悪いわよ。どこか痛いなら無理せずいって」 エリファスの気づかいに返事をする。エリファスは心配そうに体調を尋ねるが、真実を教えるわけにはいかない。 もしも、『あなたの息子は怪物に姿も記憶も真似されて、とっくの昔に死んでいる』などと言っても信じてもらえるはずがない。 それだけでなく、万が一真実を知った彼女がどれほど傷つくか。エールはとても怖かった。 嘘ですませることができるのなら、それがいいときもある。 そう割り切るにはまだエールは若かった。 「あの、エリファスさん……」 「はい、エールちゃん。どうしたの?」 エールがゴクリとつばを飲み込む。舌を湿らせて、どうにか言葉をひねり出した。 胸の鼓動がうるさい。それでも聞かねばならなかった。 「もしも……もしも、メカニロイドが死んだ大切なヒトのデータをすべてコピーして現れたら、そのメカニロイドは大切なヒトだと思う?」 奇妙な質問だとは自覚している。これ以外例え方を知らない。 エリファスは黙り込んでいる。エールの質問を理解しかねているのだろうか。 それもしょうがない。 「ごめん、唐突すぎた。これは忘れて」 「……そんなことはないわよ。エールちゃんが真剣だから、ちょっと考え込んだだけ。 そうねぇ、私はやっぱりそのメカニロイドと大切なヒトは違うと思うわ。死んだヒトは生き返らないもの」 エリファスは柔らかく微笑みながら、エールに答えた。 天道と似た結論にエールは意外に思う。 「……心をコピーしても?」 「ええ。だってかわいそうじゃない」 「かわい……そう?」 エリファスはエールに頷く。 エールにはジルと彼女の関係が重なるため、かわいそうという一言が不意打ちであった。 「『コピーしちゃったメカニロイド』は決して死んだヒトにはなれない。だから、それを大切なヒトの生き返りだって思ったら、ずっとそのメカニロイドは自分になれないのよ。かわいそうだわ」 エリファスの答えにエールは目を見開く。優しい彼女らしい答えだった。だからこそ辛い。 彼女ならきっと、ジルでなく怪物だと彼が告白しても受け入れそうだからだ。 エールはその可能性を摘みとる。今、なにが正しいのかエールにはわからなかった。 □ 結局、三日の時間はエールに答えを与えなかった。 ポツポツと小雨が振り、空は厚い雲で覆われている。 昼なのに薄暗く、不吉な予感しかない空だった。 『エール……』 「大丈夫、モデルX。…………覚悟はできている」 エールはつぶやいて、店の自動ドアをくぐって中へ入っていった。 ここにジルがいるはずだった。できればエリファスは留守であって欲しいと願う。 暗い店内へと足を踏み入れ、エールは軽く眉をひそめる。 人の気配がしない。 『やられたか』 「そんなはずはない! だって、あのときの目は……」 『あいつの目を見れたのか?』 モデルZが鋭く尋ねる。エールは言葉を失って目を伏せた。 知りあいがワームだった。その事実に混乱し、言葉の真偽を確かめるのを怠ったのではないか。 エール自身もそう思っていた。 『そう結論をつけるのは早いと思う。とりあえず店内を捜索しよう』 モデルXが間を取り持ち、エールもモデルZも黙る。 別にモデルZは怒っているわけではない。単に冷静なだけだ。 多少動揺しているエールが店内を回ろうとした瞬間、通信機が鳴った。 「プレリー?」 『エール、まずいことになったわ。郊外にイレギュラーの反応を多数確認したの』 「まさか……ッ!」 エールは歯を食いしばる。もしかして、ジルの姿を奪ったワームがイレギュラーを指揮しているのではないか。 エールに自分を責める自虐の感情が芽生える。 ―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。 ―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。 ―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。 ―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。 あのとき同じことが起きるかもしれない。そう思うと、エールは居ても立ってもいられなかった。 エールは店をとびでて、モデルXとモデルZの力で赤い装甲のロックマンZXへと変身していた。 人の名前を刻んだ墓石をいくつも通り過ぎて、天道は目的の人物へと接触する。 天道が独自に調査を続けていると、ある事実が発覚したのだ。 だから、彼女が重要人物となり、問いただすことを決めた。 「突然すまない。あなたに尋ねたいことがある」 「あなたはエールちゃんを迎えに来た……」 「天道総司だ」 天道は簡潔に告げると、喪服を着たままのエリファスへ身体を向けた。 車椅子の彼女は花を墓へと添えている。この墓はあの殺人事件で身元がわからなかった者を収めているはずだ。 「……誰か知り合いが?」 「ええ。私の息子が」 エリファスの答えに天道は僅かに眉を動かす。 小雨が降ってきて、風が街路樹の葉を揺らした。 □ 様々な種類のガレオンやメカニロイドが集まったのを見届け、プロメテはイライラした様子で歩きまわる。 合流する予定のワームがいまだにこないのだ。 先に到着したはずのマスクド・ライダーに選ばれし男。黒崎一誠も姿を見せない。 岩が露出し、小雨で濡れていくのを見届けてプロメテは苛立たしげに岩を砕く。 「まだか! まったく……」 プロメテはモデルVに絶望や恐怖の感情を与えるための今回の作戦に興味がない。 持ってきた戦力をワームに任せて、さっさと引継ぎを終わらせたいのだ。 エールと戦えるのは少し魅力的だが、まだ彼女に死んでは困る。 楽しすぎてくびり殺さないようにするのは難しい。 危ない思考を続けるプロメテは人の気配を感じて頭を上げる。 現れた存在からは普通でない雰囲気が漂っていた。 「キサマがここに派遣されたワームか?」 「……ええ」 プロメテはフン、と鼻を鳴らす。柔和な顔に黒ぶちメガネ。金髪の優男を擬態先に選ぶとは、よくわからないワームだ。 強者だとは聞いていたが、本当か怪しいものである。 「まあいい。さっさと……」 プロメテがイレギュラーの群れを押しつけようとした瞬間、嫌な予感がして地面を蹴る。 プロメテが消えた場所へ巨大な岩をスズムシを模したワーム、ベルクリケタスワームが投げ飛ばしていた。 岩はプロメテに掠りもしなかったが、ガレオンを十数体まとめて潰す。 「どういうつもりだ?」 「……見ての通りだ。ここから先は一歩も通さない!」 「虫けらがヒトの真似事か?」 プロメテが苛立たしげに大鎌を振るう。同時にイレギュラーたちもあのワームを敵と認めたようだった。 一斉砲撃がワームを狙う。クロックアップはクロックダウンチップを装備したプロメテの前では無意味。 されど、イレギュラーの砲撃はすべてワームに当たることはなかった。 ワームは冷静にすべての弾道を見極めて、針の隙間を通すように僅かな合間へと身体を押し込み、前へ前へと進んでいく。 「ほう」 プロメテは目の前のワームの戦闘力の高さに感心する。 今まではスペックを笠に着て、戦闘そのものは素人同然の連中が多かった。 イレギュラーの損傷が二割を超えたとき、プロメテの口角が釣り上がる。 「少しは楽しめそうだなぁ!」 プロメテの不機嫌はどこへいったのか。楽しげに笑いながら、大鎌をワームへと振るう。 風が唸り、鎌の刃を迫らせてプロメテは大きく笑った。 それは二日前のことだった。 ジルは白い店内に存在する花たちに手入れをして、綺麗に見えるように整えていく。 すべての作業を丁寧に行い、業者に渡す商品を準備した。 淡々と仕事をしていると、店の自動ドアが開いて客が入ってきたことを知らせる。 ジルは無理やり笑顔を浮かべて、客の訪問を歓迎した。 「いらっしゃいませ!」 「どうも」 「黒崎さん……」 白いスーツに白い帽子を被った、筋骨隆々の大男が現れる。 彼は店内の青いバラを手にとり、満足そうに頷いていた。 「我々のもとに戻る決心はつきましたか?」 「…………すみません」 「そうですか。残念です」 ジルは戻らない、と言外に告げる。黒崎は言葉通り残念そうに青いバラを愛でていた。 「強く、綺麗なバラを育てる。そんなアナタには生きていて欲しかったのですが」 「サソードすら彼女たちに渡した。僕は裏切り者だ。生かす必要はない、ということですよね?」 ジルが黒崎に向けて構える。顔には緊張が走っていた。 だが、意外にも黒崎は行動を起こさない。 「我々のこの街での目的は知っていますね?」 「ええ。それを聞いて……」 まだ死ねないとエールに告げた。その言葉を飲み込んで、ジルは黒崎と目をあわせる。 黒崎は不思議そうにジルを見つめていた。 「ならば覚悟は出来ていることでしょう。私はアナタを殺す気がありません」 「見逃してくれるのですか?」 「アナタしだいです。それでは」 黒崎はそう言って、店から離れていった。ジルの育てた青いバラは彼のお気に入りである。 逆に言えば、彼が今までジルを見逃してきたのもそれだけだ。 いつ殺されても不思議ではない。ジルはただ、唇をかみしめた。 調査を続けているうちに、天道は毎夜ある男の目撃証言があったことに気づいた。 周囲が気にもとめなかったのは、彼が殺人を犯すには不可能の距離で目撃されていたからだ。 クロックアップを使えば、アリバイなど意味をなさない。 ゆえに天道は殺人の夜、毎回外出していたジルへとあたりをつけたのだった。 「いつから知った?」 「最初からですよ」 エリファスはそう言って、花束を整える。 墓はとても綺麗で、彼女が何度もここへ来たことがわかった。 「…………同じ姿をしていても、同じ記憶を持っていても、わかってしまったのです。あの子はもう……生きてはいないのだと。親って難儀ですね」 「……復讐か?」 「最初はそうでした」 天道の問いに、エリファスは淡々と答えていく。 エールへと向けた笑顔は、今は力を失っているように見えた。 「ジルは……この子はすべてを奪われてここに眠ってしまっている。ジルの成長は私にとって生きがいでした。 だから、いつかあの子を……もう一人のジルを殺すために私は騙された振りを続けたのです」 「……結局、殺せなかったんだな」 「ええ。憎くて憎くてしょうがなかった。ジルじゃないのに、ジルの振りを続けるあの子に私は怒りをいだいていた。いえ、抱こうとしたの。 そうでないとこの子が悲しむと思って」 天道は無言だった。ワームの擬態は様々な事態を起こす。 彼女の身に起こったことは一番救いがなく、一番多く起こっていた出来事であった。 「けどね、楽しかったの」 「……それはあなたの息子じゃない」 「わかっている。わかっているけど……あの子は私を愛してくれた。ジルが残した店を一生懸命切り盛りして、ジル以上に私のこの身体に気を遣った。 ……なんででしょうね。あの子が本気で私を母親として慕ってくれていることに気づいてしまったの。 ジル以上にジルらしく振舞おうとした。決して私にジルの喪失を気づかせないように努力していた。 そのすべてが……とても愛しかった……」 「だが、奴は同じことを繰り返した」 「ええ。あの子はジルにしたように、ヒトをまた殺してしまった。私は……あの子を信じた自分が馬鹿なのか考えたわ。 だけど私にあの子を殺すことは出来ない。だって……部屋を覗いたら、見てしまったの…………」 彼女は一旦言葉を区切り、思い出すように目を細めた。 天道はだいたい想像ついたが黙っている。 その行為は“心を持ったワーム”ならば全員がとるものであったからだ。 「あの子は自殺しようとして、それが叶わないで泣いていた」 天道は「そうか」とだけ答えて彼女を見つめた。気丈な女性だ。 すべてを許すというのだろう。天道自身は…………。 「あなた、ジルを殺しにきたのでしょう?」 「殺す以外に彼に救いはない」 「わかっていた。いつか終りがくるって……」 エリファスは花を整えて、天道に微笑む。 天道は無表情のまま、彼女に問うことにした。 「一つ聞かせて欲しい。あなたにとって、あのワームは息子なのか?」 「ええ。かけがえのない、ジルと同じく私の息子よ。たとえ罪を贖わないといけないのだとしても……」 エリファスの微笑みが天道には眩しい。彼女は本気で、ワームとしての彼を愛したのだ。 それでもワームは殺さねばならない。たとえ彼女を不幸にしても。 天の道は辛く険しい。だからこそ天道総司が往くのであった。 □ エールが郊外のエリアに踏み込み、周囲を見渡した。 今のエールは赤いアーマーを身にまとい、緑のクリスタルが額に存在している。 普段は黒いエールの髪が金に染まり、マフラーのように風になびいていた。 ロックマンZXとなったエールは敵の攻撃を想定して構えていたもの、視界に入ったものに驚く。 「イレギュラーの残骸……?」 『戦闘の跡だと? 天道が来たのか』 「わからない。先を進んで確かめる!」 疑問を口にするモデルZへ答え、エールは地面を蹴った。 エールは風を切って進むも、イレギュラーに襲われる気配は皆無だ。 目に映るのは残骸ばかり。エールの疑問が深まるが、足をとめる。 白い三角状のヘルメット。紫色のアーマー。死神のような大鎌。 振り向き凶悪な笑みを浮かべるそいつを、エールはよく知っていた。 「プロメテ……!」 「遅かったな。モデルZXのロックマン」 プロメテはそう言って、右手に握っていた虫の羽らしきパーツをエールに投げつける。 エールの四肢を麻痺させた、催眠音波を発していた部分である。 エールが視線を移動させると、プロメテの足元には全身に切り傷を負ったベルクリケタスワームがいた。 「エール……さん……?」 「まさかワームを手懐けるとは思わなかったぞ。毎回俺を楽しませてくれる。こいつのせいであの街を襲う計画がパーだ」 ワームの羽がエールの胸にぶつかり、はらはらと地面に落ちた。 それはどこか、花びらが落ちるのに似ている。ジロリとエールはプロメテを睨みつけた。 「…………ジルさんを離して」 「虫けらを庇うのか? 滑稽な話だ。こいつらはどの道、ヒトを殺さないと生きていけない種族というのに」 プロメテの言葉にベルクリケタスワームがうなだれた。 それでもエールは一歩踏み出す。たしかにエールは彼を殺そうとした。 だからといって、プロメテに踏み潰されたままの彼を放っておくわけにはいかない。 理屈じゃないのだ。あくまで感情でエールは動く。 ZXセイバーの柄が変形して銃となる。エネルギーをチャージ終えた銃口が、人一人分の大きさの光弾を吐き出す。 ジルを開放し宙に浮かんだプロメテを睨んで、エールは宣言した。 「聞こえなかった? アタシは離して、っていったのよ」 「クックック……いいぜ。ちょうどストレスが溜まっていたところだ。相手してもらうぞ!」 プロメテがハイになり、大鎌を振り上げた。 エールはZXセイバーを構えて迎え討つ。 二人が同時に距離を縮めたとき、エールの耳に『One,two,three』と聞き慣れた電子音が響いた。 「ライダー……キック」 稲妻の如く、カブトが落下して地面にクレーターができる。 プロメテは飛び退いて舌打ちをしていた。エールはカブトの背を視界に入れて、彼の乱入に驚く。 「天道……」 「無事か?」 カブトの問いにエールは頷いて無事を示す。プロメテが襲ってくると身構えるが、彼は宙に浮いているだけだ。 不機嫌そうに鼻を鳴らし、離れていく。 「逃げるの!?」 「見逃してやるだけだ。それに三対一は趣味じゃない。モデルVの生贄に都合がいい場所はまだまだ多いしな」 「なら一つだけ聞かせて! モデルV……もう一つあったの?」 エールの疑問はもっともだ。セルパンカンパニーに保存されたモデルVは破壊したはずだ。 あの象のフォルスロイド、ビッグドンの『モデルVへの生贄を作る』という任務から不思議に思っていたのだ。 そのエールにプロメテは馬鹿にしたように嘲笑した。 「もしかしてお前、あのモデルVですべてが終りだと思っていたのか?」 「どういう……こと!」 「あれで終わるわけがないだろう。あれはただの始まりだ。お前はしょせん、この腐れたロックマン同士の争いの駒なんだよ!」 プロメテは狂ったように笑い、カブトの銃撃を避け続ける。 エールを見下ろすプロメテは本当に愉快そうだった。 「さあ、ここまではいあがってこい。お前には選択肢はないのだからな……」 そう言って、プロメテの姿が消える。簡易転送装置だろう。 反応の探索はプレリーに任せるしかない。エールは歯を食いしばる。 ビッグドンの言葉から薄々は気づいていた。覚悟もしていたはずなのに、プロメテが肯定するだけでモデルVへの恐怖が蘇りそうだった。 エールは頭を振り、決意に満ちた瞳をプロメテが消えた先へと向ける。 「絶対にまた、アタシが止める」 エールのつぶやきは黒い雲に吸い込まれて消える。 モデルVとの因縁はエールが強い。こればかりはカブトに任せるわけにはいかなかった。 守るためのロックマン。それこそが彼女を支えるものであったのだから。
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BGM:http //www.youtube.com/watch?v=daYKIeUFvH8 feature=related 仮面ライダーW、今回の依頼は? 「ちょっと待って、翔太郎。・・・なんで、『君だけがWになってる』の?」 「・・・え?」 『私は・・・私は・・・。』 「・・・雪華綺晶?」 『!・・・どうして、あなたが私の名を・・・?』 「俺はな・・・お前みたいな彼女持ちが大っ嫌いなんだよ!それにな・・・そいつが仮面ライダーなら尚更なんだよっ!!」 STAGG! TRIGGER!!MAXIMUM DRIVE!! 「『トリガー・スタッグボマー!!』」 「だぁれが殺した駒鳥さん・・・。」 仮面ライダーWは唖然としていた。 ロブスター・ドーパントのメモリブレイクを完了し、あとはいつものようにメモリの所有者を警察に引き渡すだけだと彼は考えていた。 だが、その流れは突然聞こえてきたマザーグースの歌をきっかけに遮られてしまった。 突如として発生した、白い薔薇の花吹雪。 それはロブスターのメモリの所有者の体を包み込み、そして彼の体を今度は薔薇のツタで包み込むのであった。 「おい・・・これって・・・。」 この光景を見て、思わずつぶやく左 翔太郎。 彼の頭の中ではある光景が浮かんでいた。 翔太郎自身の右腕が薔薇のツタに包まれ、そしてそのツタに咲いた白い薔薇の花から雪華綺晶が現れた時の光景を・・・。 そして、Wの目の前でツタから芽を出す1つの白い薔薇。 その芽は人間の右目に当たる部分で大輪の花を咲かせると、 それが合図であったかのようにツタだらけだった体を『1人の少女』へと作り変えるのであった。 「私の体・・・私の体・・・ふふふふふ・・・。」 「そんな・・・馬鹿な・・・。」 Wの前に姿を現した存在、それは紛れも無く、仮面ライダーWの右半身として翔太郎と意識を共有しているはずの雪華綺晶であった。 「・・・きらきー!どうして、君が・・・君がもう1人いるんだ?!」 翔太郎が思わず叫ぶ。 『どうして・・・あなたが・・・。』 「?!きらきー、何か知ってるのか?」 もう1人の自分を見て動揺する雪華綺晶に対して、反応する翔太郎。 一方、もう1人の雪華綺晶は2人のやりとりをジィーっと見ていた。 「いいな・・・。」 「・・・あぁ?」 「いいな・・・そっちの私には友達がいる・・・こっちの私には友達がいない・・・。」 「なんだと・・・?」 「友達・・・欲しい・・・私が・・・奪う!!」 そう言って、Wに襲い掛かろうとするもう1人の雪華綺晶。 だが、それよりも先に攻撃を仕掛けた者がいた。 もう1人の雪華綺晶を襲う炎の拳、その炎は彼女の胸部を炎で包み込む。 その攻撃主はW・・・いや、雪華綺晶の意識であった。 「・・・きらきー?」 翔太郎が雪華綺晶の意識に声をかける。 『お願い・・・。』 「?」 『お願い・・・もう・・・私の前に現れないで!!』 絶叫する雪華綺晶。 それと同時に、雪華綺晶の意識が形成するヒート・ボディはまるで雪華綺晶の感情に呼応するかのように燃え上がるのであった。 「?!きらきー、落ち着け!!」 突然の事態に叫ぶ翔太郎。 だが、その声が耳に入らなかったのか、雪華綺晶の意識は拳に炎をまとって、 もう1人の雪華綺晶に襲いかかるのであった。 OP:http //www.youtube.com/watch#!v=updaAwZ_WDE feature=related 「やめるんだ、きらきー!」 再び、翔太郎が雪華綺晶に言う。 しかし、雪華綺晶の意識はまるで暴走するかのように、炎の拳でもう1人の雪華綺晶に襲いかかる。 それに対し、腕から薔薇のツタを伸ばしてWの攻撃に対抗するもう1人の雪華綺晶。 ぶつかり合う拳と薔薇のツタ、そしてそこから発せられる火花。 戦いは一進一退であった。 「ふふふ・・・。」 すると突然、もう1人の雪華綺晶が笑いだした。 『何がおかしいのよ!!』 雪華綺晶の意識が、今までに発したことの無いような怒りの声をあげる。 「あなたには・・・力がある・・・。」 『・・・力?』 「あなたには力がある・・・でも・・・私にはない・・・欲しい・・・力が・・・力が・・・力が!!」 叫ぶもう1人の雪華綺晶。 そして、Wの前に狂気に満ちた顔をさらけ出すのであった。 「な・・・何なんだ?!」 突然現れた恐怖の表情に、思わず驚く翔太郎。 すると、もう1人の雪華綺晶は翔太郎の驚きによって出来た隙をついて腕からツタを放つ。 一直線にダブルドライバーへと向かうツタ。 そして、右サイドにあったヒートのメモリに絡めると、そのままメモリを半ば強引に抜くのであった。 ヒートメモリを手に取り、嬉しそうにするもう1人の雪華綺晶。 と同時に、先ほどまで怒りの炎で燃え上がっていたWのヒート・ボディはメモリの力を失い、もとの姿へと戻るのであった。 「あっ?!おい、危険だからそのメモリを返せ!!」 Wのメモリの恐ろしさを知る翔太郎がもう1人の雪華綺晶に向かって叫ぶ。 だが、もう1人の雪華綺晶はその声を無視する。 「・・・くそっ!こうなったらヤケクソだ!!きらきー、トリガー・フルバーストだ!!」 LUNA!TRIGGER!! メモリ・チェンジし、ルナ・トリガーとなるW。 そして間髪いれずにメモリブレイクの体勢に入ろうとする・・・が、 トリガーメモリをトリガーマグナムに装填する寸前、Wの右腕が動きを止めてしまう・・・いや、止められてしまった。 「何っ?!」 その原因は地面から伸びた薔薇のツタが右腕に絡みつき、固定されてしまったためであった。 それに気づき、トリガーマグナムで右腕のツタの破壊を試みようとする翔太郎。 だが、それよりも先に、新たに生えたツタによって左腕も固定され、Wは身動きが取れない状況となるのであった。 ツタの発生源である、もう1人の雪華綺晶を見るW。 目線の先には、右手に握られたヒートメモリを舐めるように見て嬉しそうにしている彼女の姿があった。 「ふふふ・・・私の力・・・私の力・・・みぃつけた!」 嬉しそうだった顔から、再び狂気の顔を見せるもう1人の雪華綺晶。 すると、右手のヒートメモリを自分の肉体を形成した時のように薔薇のツタで包み込み、 そしてガイアメモリ自身をそのまま自分の体内に取り込むのであった。 「私の力・・・炎の力・・・燃やしてやる・・・燃やしてやる!!」 叫ぶ、もう1人の雪華綺晶。 と同時に、彼女の体は先ほどのWのように炎をまとうのであった。 「よせ!そのメモリを解放するんだ!!」 翔太郎が叫ぶ。 だが、もう1人の雪華綺晶はその声に耳を貸さず、 それどころかメモリの力を使って両手に発生させた炎の弾を拘束されたWに向けて放つのであった。 「ぐあっ?!」 『きゃあっ!!』 その体を炎に包まれ、苦しむW。 しかし、もう1人の雪華綺晶は2人の苦しむ姿を楽しむかのように炎の弾を連続発射するのであった。 「もうすぐ・・・あなたは消えてなくなる・・・そして・・・その男は・・・私の仲間になる・・・私の物となる・・・体も・・・力も・・・。」 もう1人の雪華綺晶が言う。 一方のWは、炎の弾による連続攻撃で戦意を喪失し、Wの姿のまま地面に倒れこむ。 「私の体・・・私の力・・・。」 もう1人の雪華綺晶がWの力を乗っ取ろうと、倒れこむ彼のもとへ近づこうとしたその時だった。 ENGINE!!MAXIMUM DRIVE!! 突然聞こえてくるガイアウィスパー。 そして、その声を合図に上空から“A”の形をした光の塊がもう1人の雪華綺晶に襲いかかる。 それに対し、もう1人の雪華綺晶はとっさに円盤状の炎の壁を作り出し、上空から飛んできたエースラッシャーを相殺させるのであった。 「ふん・・・どうやら随分と骨のあるお嬢様のようだな。」 倒れこんだWの前に降り立った男が言う。 その声に、今まで気絶していたWが反応した。 「て・・・照井・・・。」 そこには、エンジンブレードを肩にかけて構える仮面ライダーアクセルの姿があった。 「あなたも・・・仲間・・・。」 「仲間だと・・・?俺はこいつの保護者みたいなもんだ。」 「仲間・・・力・・・あなたも・・・奪う!」 「・・・随分と耳の遠いお嬢様だな。」 再び狂気の表情を現わして、アクセルに襲い掛かるもう1人の雪華綺晶。 だが、その表情に屈することなくアクセルはエンジンブレードの引き金を引いた。 STEAM! エンジンブレードから多量の水蒸気が発せられ、白い空間と化す周囲。 もう1人の雪華綺晶はその中に飛び込むが、彼女が目星を付けたはずの場所にアクセルたちの姿は無く、 その気配もすでに波止場から消え去っていたのであった。 「力・・・体・・・仲間・・・。」 何かに取りつかれたかのように、再び同じセリフを繰り返すもう1人の雪華綺晶。 そして、Wとアクセルの力を狙い、彼らを追おうと歩き出したその時、彼女の足に何かが触れた。 「・・・力・・・みぃつけた!」 雪華綺晶は目を覚ました。 そこは、鳴海探偵事務所内のドックのベッドの上であった。 『ここは・・・。』 起き上がる雪華綺晶。 しかし、その途端に痛みが右肩に走るのであった。 『くっ・・・!翔太郎!!』 雪華綺晶は突然ハッとし、自分の宿主である翔太郎を見る。 彼の体は重傷にまでは至らなかったものの、もう1人の雪華綺晶の攻撃によって所々に火傷を負っていた。 「・・・あ、雪華綺晶ちゃん!」 雪華綺晶の耳に鳴海 亜希子の声が飛び込んでくる。 声の方向を見る雪華綺晶。 そこには亜希子、その後ろには照井 竜と救急箱を持ったフィリップの姿があった。 『あ・・・亜希子さん、翔太郎の容体は?!』 「ああ、翔太郎なら・・・。」 亜希子に代わって、フィリップが言おうとしたその時だった。 「俺なら心配ねぇよ、きらきー・・・。」 『翔太郎!!』 翔太郎が包帯の巻かれた体を起こして答える。 「大したもんだよ、翔太郎。君のタフさには、僕も毎回驚かされるよ。」 「昔から体力には自信があったしな・・・それに、仮面ライダー稼業をやってると、自然に鍛えられちまうもんさ・・・。」 「まったく・・・鉄人だな、お前は。」 照井があきれたような声で言う。 「それにしても・・・竜くん、ありがとうね。 翔太郎君と雪華綺晶ちゃんを助けてくれて・・・って、竜くんは雪華綺晶ちゃんが怖いんじゃなかったっけ?」 亜希子が聞く。 「出来た弱点をすぐに克服するのが俺だ。そんなくだらないことで俺に質問するな。」 「何よぉ~、その言い方ぁ!」 「・・・そんなことよりだ。」 照井は亜希子を押しのけると、雪華綺晶の前に立った。 「君に聞きたい。あの少女は君と全くそっくりな容姿・声をしていた・・・いや、もう1人の君と言っても欠損は無いだろう。 あれはいったい何者なんだ?」 『あれは・・・私です。』 雪華綺晶が答える。 「どういうことだ?」 「・・・もしかして!」 突然、亜希子が大声を出すと、フィリップの作業机に置いてあった2冊の本を持ってきた。 「フィリップくん、さっき言ってたでしょ?! 『地球(ほし)の本棚には、本来ひとつの存在につきひとつの本しか無いはずなのに、雪華綺晶ちゃんにはふたつ存在してた』って!!」 「ああ。そして、ひとつ目の本には僕たちの知っている清純な乙女としての雪華綺晶の詳細が、 そしてもうひとつには憎しみや怒りといったマイナス感情に支配された雪華綺晶の詳細が記載されていた。」 「マイナス感情・・・。」 翔太郎の頭をよぎる戦いの記憶。 自身の体を求め、我々に対抗するための力を求める欲望・・・。 自分を震え上がらせた、狂気に満ちた顔・・・。 『あれが本当の私・・・そして、私はあの私の亡霊のようなものです。』 突然、雪華綺晶が口を開く。 「雪華綺晶ちゃんが・・・亡霊?」 亜希子が聞き返す。 そして、雪華綺晶はこの事件の真相を語りだした。 内容はこうであった。 かつて、雪華綺晶は自分の運命を呪っていた。 他のローゼンメイデンと違い実体を持たない彼女は、nのフィールドという無の空間でたった1人で、 しかもローザミスティカという不死の存在によって永遠に過ごさねばならなかった。 そんな地獄のような生活に追い打ちをかけるように、彼女に見えてくる外界で暮らすローゼンメイデンたちの光景、 そして本当なら仲良くしたいはずなのにローゼンメイデンと戦わなくてはいけないというアリスゲームという名の運命・・・。 このふたつによって彼女の精神は崩壊し、彼女は欲望のみを求める狂気の化身へと化してしまった。 だが、一部の良心のみは欲望に支配される前に彼女から分離し、 こうして2人の雪華綺晶・・・つまり、<欲望に支配された雪華綺晶>と<雪華綺晶の良心の化身>と化した訳であった。 「なるほど・・・そういうことだったのか。」 フィリップがつぶやいたその時、照井のビートルフォンの呼び出し音が突然鳴る。 「照井だ。」 『課長!こ・・・こちら、真倉!』 その声の主は、照井の部下である真倉 俊であった。 風都の中心部から離れた場所にあるショッピングモール、アルバトロス・パーク。 いつもは観光客や地元の人でにぎわう風都の観光地なのだが、この日は違っていた。 叫び、逃げ惑う客たち。 彼らの視線の先には、暴れる何者かの姿があった。 「た・・・大変です!アルバトロス・パークに・・・ドーパント出現!!」 『何だと?真倉、映像を送れるか?』 「は・・・はいっ!!」 真倉は自身の携帯電話を持ちかえ、ビデオモードを起動させる。 「これは・・・ロブスター・ドーパント?!」 フィリップが叫ぶ。 確かに、ビートルフォンに映し出された映像にはロブスター・ドーパントが映し出されていた。 だが、その体はWが戦った茶色ではなく、真っ白なものとなっていた。 『私の・・・力・・・。』 「ん?」 映像から聞こえてくる声に耳を傾ける照井。 その声は、先ほど戦ったもう1人の雪華綺晶の声であった。 「真倉!お前の近くに白薔薇のような少女はいるか?!」 『しょ・・・少女ですか?!そんなの探せる状況じゃないですよ! こっちはドーパントが『私の力』がどーしたこーした言いながら暴れてるんですから!!』 「・・・何だと?」 モールのガラスや建物を破壊しながら進むロブスター・ドーパント。 そのロブスター・ドーパントは破壊行動を行ないながら、こうつぶやいていた。 「私の力・・・新しい力・・・アクセルにも・・・Wにも・・・負けない力!!」 アルビノ・ロブスター・ドーパント、正体は破壊されたロブスターのメモリを吸収した<欲望に支配された雪華綺晶>であった。
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空から降りてくる銀色の怪人。 その怪人は姿を変える、士たちには見覚えのある姿だ。 仮面をつけ奇妙な形をした銃を持った戦士、仮面ライダーディエンドだ。 ようやく来たか、と士はため息混じりに呟きながら椅子から腰をあげる。 後ろではユウスケとプリキュアたちが何時襲いかかれても反応出来るように身構えている。 「貴方……!」 「おっと、お前らは話したいことは山積みだろうがな。悪いが直ぐに終わらせて貰うぞ」 『全てを一つに……!』 「あんまり、こいつはいい気がしないんでな」 士とフュージョンが同時に腰元からカードを取り出す。 士は一枚のカード、フュージョンは四枚のカード。 それぞれがドライバーにカードを挿入し。 「変身!」 士はキレのある声を上げ、フュージョンは無言でトリガーを引いた。 ――――― KAMEN RIDE ―――――― ―――――― DECADE ――――――― ――――― KAMEN RIDE ―――――― ―― BLADE GALLEN CHALICE RENGEL ―― 仮面ライダーディケイドへと、士は変身する。 パンパンと手を払いながら、フュージョンを見据える。 ブレイド、ギャレン、レンゲル、カリスの四人のライダーをフュージョンは召喚する。 吸収したディエンドライバーを使った『カメンライド』だ。 知識を元に自らの分身として作り出したレプリカとは強さが違う。 その四人のライダーがそれぞれのプリキュアたちへと向かっていく。 露払いと言うのだろうか、四人のライダーによって距離を取られディケイドとクウガと夏海の三人とフュージョンが向かい合う。 『仮面ライダーディケイド……強き力の持ち主……私と、一つに……!』 「やれやれ、そのためにこんなことをするとはな……ユウスケ、下がってろ」 「士!」 「一対一が好きなんだろ? お前は夏みかんと一緒に別の敵を警戒してればいい」 戦闘力のない夏海のことを言われるとユウスケは何も言えない。 士の言うとおり万が一他にも敵がいた場合、最も危険なのは夏海だ。 渋々といった様子で下がっていく。 「さて……」 そのユウスケの様子を見てから、フュージョンへと向き直る。 だが、フュージョンはディエンドライバーのトリガーを引き既に攻撃を行っていた。 未だに変身すらしていない士に向かって、だ。 これで仕留めた、とはさすがにフュージョンは思わない。 海東大樹の記憶の中にあった『仮面ライダーディケイド』はそれほど簡単な相手ではない。 それに答えるように、前方から機械音が響いた。 ―――――― KAMEN RIDE FAIZ ――――――― ―――――ATACK RIDE ACCEL FORM ―――――― 「ったく、気の早い奴だ」 ファイズのアクセルフォームへと変身してフュージョンの攻撃を避けていた士。 それどころかフュージョンの後に回っている上に、追撃と拳を振るう。 アクセルフォームの超高速運動はたった十秒間だが、フュージョンを仕留めるには十分な時間だ。 『ふん……』 「なっ!?」 だが、フュージョンは液体状になることでその超高速の攻撃を防ぐ。 この一撃で動きを止め、ファイナルアタックライドにより決めようとしていたディケイドにとっては予想外の出来事。 その動揺に突き込まれフュージョンの振るう拳によって吹き飛ばされる。 「ちっ!」 衝撃を逃がすように柔らかく着地しながら、ディケイドは仮面ライダー響鬼のカードを取り出し素早くディケイドライバーに差し込む。 ―――― KAMEN RIDE HIBIKI ――――― 「はぁっ!」 『考えることは同じと言うことか……』 仮面ライダー響鬼となったディケイドは音撃棒・烈火を振り烈火弾を飛ばす。 グニャグニャと姿を変えるフュージョンには単純な打撃技よりも炎などの方が有効だと思ったのだろう。 フュージョンはディエンドライバーのトリガーを引きその炎を撃ち落とす。 「これでどうだ!」 烈火弾が撃ち落とされたことから、ディケイドは口から紫色の炎である鬼火を吹き出す。 だが、それも液体状となり位置を変えるだけで防ぐことが出来る。 所詮ディエンドと同じ戦法か、とフュージョンが内心で溜息をつくと機械音声が響いた。 ―――― KAMEN RIDE RYUKI ――――― 『むっ……』 フュージョンが液体状からディエンドへと姿を戻したときには既にディケイドの姿は消えていた。 なるほど、先程の鬼火は視界を封じるためのものかとフュージョンは得心する。 「はぁ!」 その得心すると同時にタコカフェの屋台の窓から仮面ライダー龍騎の姿をしたディケイドが飛び出してくる。 鏡の中の世界、ミラーワールドへと侵入することが出来る龍騎の力を使って奇襲をかけたのだ。 龍の頭部の形をした篭手・ドラグクローを嵌めた腕で殴りかかる。 『ぐぅ!?』 身構えていなかったフュージョンの後部に直撃する。 ここでようやく見せた隙を逃さないとディケイドは次々に拳と蹴りでフュージョンへダメージを与えていく。 そして動きが鈍ったと見破った瞬間に気合を込めた蹴りで、フュージョンを後方へと吹き飛ばした。 「はぁぁぁぁぁぁ……はあ!」 息を長く吸いながら引き下げた右腕を思い切り突き出す。 ドラグクローから一つの炎球が猛スピードで飛び出し、フュージョンへと突き進んでいった。 直撃を食らったフュージョンはのたうつように顔を俯かせる。 「これでトドメだ」 そのフュージョンを眺めながら、ディケイドは何処からかケータッチとコンプリートカードを取り出す。 コンプリートカードをケータッチへと差し込み、タッチパネルを順に押していく。 ―――― KUGA ――――― ―――― AGITO ――――― ―――― RYUKI ――――― ―――― FAIZ ――――― ―――― BLADE ――――― ―――― HIBIKI ―――― ―――― KABUTO ―――― ―――― DEN-O ―――― ―――― KIVA ―――― 低い機械音声で仮面ライダーの名が発声させられる。 ケータッチにあるそれぞれのライダーをモチーフにした紋章を押した後に、左にあるボタンを押す。 ―――― FINAL KAMEN RIDE ―――― 全てのボタンをタッチしたディケイドは相変わらず堂々とした姿で仁王立ちする。 フュージョンは先程の攻撃を受けてまだふらついている。 ―――――― DECADE ――――――― クウガ、アギト、龍騎、555、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。 それぞれのライダーのカードが胸から両肩にかけて伸びるように現れたホルダーに収まっていく。 そして、その9つのカードに反応するようにディケイドのカードを額のホルダーへと差し込まれていく。 それを確認したディケイドは、素早くディケイドライバーを右腰へと差し替え、ケータッチを腰へと装着する。 マゼンダ色をあしらった黒と銀のスーツを着た戦士。 これこそが仮面ライダーディケイドの最強フォーム、コンプリートフォームだ。 「……」 遠目からフュージョンの戦いを見ていたプリキュアたちにも、コンプリートフォームからとてつもない力を感じ取れた。 自分たちが限界に追い込まれて出す全力と同等は間違いなくあるだろう。 そのコンプリートフォームとと相対しているというのにフュージョンは身じろぎもしない。 ディケイドはそんなフュージョンの様子が気にくわないのか、眉をひそめながらケータッチを取り出す。 フュージョンは、とにかく固い。 動きや単体での破壊力ならばディケイドの方が上だが、液体状の身体に対して打撃では確かなダメージが入っていないのだ。 だから最強フォームでさっさと終わらせる、そう目で語りながらケータッチのアギトの紋章をタッチする。 ―――― AGITO・FINAL ATACK RIDE・SHINING ―――― 「はあああああああああ……!」 ソードモードとしたライドブッカーを腰だめに構え、ディケイドは息を吐きながら構えた。 ディケイドによって呼び出されたシャイニングアギトもディケイドと同じように構える。 フュージョンは何が起こるのかを理解している。 だが、身動ぎ一つしない。 「はああ!」 ディケイドとシャイニングアギトが剣を振るう。 その斬撃は一閃の光となってフュージョンへと突き進んで行く。 フュージョンは、動かない。動かなければ斬撃を防ぐわけるがなく。 その攻撃はフュージョンへと見事に直撃した。 「……呆気ないな」 斬撃が確実に当たったことによりシャイニングアギトが姿を消す。 一人取り残されたディケイドは実感のこもらない言葉でポツリと漏らす。 それこそ言葉通り呆気ないのだ。 一度はプリキュアたちを圧倒し、ディエンドを吸収したにしては簡単すぎる。 だが、終わるときはそんなものなのかもしれない。 「士、危ない!」 そう思いながらディケイドはベルトに装着したケータッチを外していく時、後方からユウスケの声が響く。。 切羽詰った声色から、ディケイドは何が起こったと尋ねるよりも防御の姿勢に構える。 「地面に影が出来てる……上からか!」 そう呟きながら素早く上空へと視線を移す。 そこには巨大な水たまりのように姿を変えたフュージョンが居た。 斬撃を受けて出来た爆発の瞬間に、無事だった部分を液体状として素早く上空へと移動したと言うことか。 身体を液体化させれる敵とはこれほど面倒だったのか、とディケイドは軽く舌打ちをする。 (どう攻撃が来る……? まあいい、こちらから仕掛ける!) ディケイドはライドブッカーをガンモードへと変化させ、トリガーを引きフュージョンへと射撃する。 だが、ディケイドが攻撃を仕掛けたと同時にフュージョンは銀色の触手へと姿を変える。 数十本はあるだろう触手だ、その触手が猛スピードで迫っている。 幾つかはディケイドの攻撃で撃ち落とされたが、いかんせん数が違いすぎる。 触手のうちの一本がディケイドの腹部へと直撃し、動きが鈍った瞬間を狙い撃ちされるように次々と触手が襲いかかってくる。 「士! くそっ、変身!」 やがて痺れを切らしたようにユウスケが走りながらの変身で向かってくる。 そして、中心に居る触手たちの大本の、触手が枝ならば枝を支えている幹となる円球へと向かってライダーキックを撃つ。 リントで唯一の戦士としてグロンギなる敵と戦ってきたクウガのパワーは強大だ。 押されるようにフュージョンの動きが止まる。 ディケイドは『よくやったユウスケ!』と珍しく人を褒める言葉を発してもう一度ケータッチを取り出す。 ユウスケがクウガへと変身して戦局に参加した以上、夏海に危険が及ばないよう直ぐ様ケリを着けるべきだ。 故に、ファイズのブラスターモードかハイパーカブトで一気に焼き払うのが有効だと判断したのだ。 斬撃のような線の攻撃ではなく、超火力による面での攻撃。 手馴れた動作でケータッチのボタンを押していく。 「……なんだ?」 だが、一向にケータッチは反応しない。 何が起こったと目を丸くさせながら、何度もボタンを押すが一向に反応を示さない。 ネガの世界で手に入れたからこちらケータッチが使えなくなったと言う経験は一切ない。 「まさか……あの触手に力を吸い取られたのか!?」 ふとその可能性が思いつく。 フュージョンは全てを一つにと口うるさく言っており、その触手による攻撃を何度も受けた。 その隙にケータッチに触れられ、その力を吸い取られたのだとしたら。 力を吸い取ることが出来る、とはわかっていたがここまで簡単に吸い取られるとは思っていなかった。 『仮面ライダークウガ……なるほど、素晴らしい力だ……クウガ、貴様も一つに!』 「はぁ!」 そんなことを考えている隙にも、フュージョンはその姿をディエンドの姿へと変えてクウガと戦っている。 癪ではあるが、ここはクウガと手を組んで戦うのがベターだろう。 『仮面ライダーの力、頂くぞ』 「士! ここは協力して……」 「分かっている、いちいち言うんじゃない!」 そう言いながらディケイドはフュージョンの左へと向かって走り出す。 クウガはその姿を見て頷くとディケイドとは反対方向、フュージョンの右へと向かう。 挟み撃ちの形にするつもりなのだ。 「一気にいくぞ、ユウスケ!」 ディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出す。 ディケイドの仮面をモチーフにした紋章が描かれたカードだ。 それはディケイドが持つ最高の威力、ディメンションキックを放つために必要なライダーカードだ。 カードをディケイドライバーを差し込む。 ―――― FINAL ATACK RIDE ―――― 「おう!」 クウガもそれに頷き、腰を落として光を右足に集めていく。 そして、その光が十分に集まるとフュージョンへと走り出す。 マイティフォームのクウガが持つ力を右足に集中させたライダーキックだ。 その二人のライダーが必殺技を放つ姿を眺めながらフュージョンは、僅かに身体を身構えるだけで動きはしない。 ――――― DE DE DE DECADE ―――― 「はああああああああああ!!」 二人のライダーの最高火力による挟撃。 並の怪人なら二回殺しても余りあるほどの威力だ。 フュージョンもその威力の恐ろしさは十分に分かる。 だからこそ、ライダー達の足との接触面を斜面のように変えて力を逃がしていく。 全ての力を防げるわけではない、ダブルライダーキックはそれほど甘いものではない。 だが、フュージョンは並の怪人ではない力を持っている上にエネルギーを吸収するというタイプだ。 『くっ……がぁ……あああああああああああ!!!』 苦しみに悶えるような叫びを上げながら、フュージョンの身体が膨らんでいく。 パワーを吸収しきれていないのか、とディケイドとクウガは判断してより強く足に力を込める。 エネルギーを吸収出来るとは言え、何時かはパンクは存在する。 その証拠にプリキュアたちの必殺技も吸収しきれなかったためにフュージョンは負けたのだ。 『はああああああああああああ!!!』 「なっ!?」 「うわぁ!」 だが、今はディエンドライバーとケータッチの力を吸い込んだ完全な状態。 そしてライダーキックも僅かに威力が流れている。 膨らんだ身体からエネルギーを弾け飛ばし、ディケイドとクウガにカウンターを食らわす。 『ふ、ふはははは! 素晴らしいぞ仮面ライダ―!』 僅かに息を切らしながら、フュージョンは吹き飛ばした二人の戦士の力を称える。 ディエンドライバーだけを吸収した、あるいはケータッチだけを吸収したフュージョンならば受けとめきれなかったかもしれない。 ゴキリゴキリと首を鳴らしながら、ディエンドライバーを天空へと飾す。 そして、一枚のカードをスロットに挿入し、機械音を響かせる。 ―――― ATACK RIDE BLAST ―――― 「ぐぅああ!!」 「おおっかぁ!!」 ディエンドライバーから飛び出た幾つもの弾丸がディケイドとクウガに追い打ちをかけるように降り注ぐ。 ライダーキックを弾かれたことによる反動で、身動きの取れない二人はまともに直撃してしまう。 それをフュージョンは冷ややかな目で見下ろし、僅かに一歩踏み出しディエンドライバーをある方向へと纏める。 その方向にはバラバラにしていたプリキュアたちが一箇所に集まりブレイドたちを押している。 フュージョンとしても十七人ものプリキュアをブレイドたち四人のライダーで倒せるとは思っていない。 とは言え、プリキュアたちも四人の仮面ライダーを相手では直ぐに倒せないだろう。 恐らく一箇所に集めて全員の必殺技で一網打尽にするはずだ。 フュージョンの予定通り、ブレイドたちはプリキュアたちを足止めした上に一箇所に集めている。 一枚のカードを取り出す。仮面ライダーディエンドをモチーフにした金色の紋章が描かれたカードだ。 そして、そのカードをディエンドライバーへと差し込み、ゆっくりとプリキュアたちへと銃口を向ける。 ―――― FINAL ATACK RIDE ―――― その機械音と共にブレイドたちの姿がカードとなっていく。 突如として消えた姿にプリキュアたちが戸惑いを見せるが、フュージョンは構わずにトリガーを引いた。 「くっ……危ない!」 ――――― DI DI DI DIEND ――――― ケータッチの力とプリキュアの必殺技とこの街に住む全ての人達の存在。 それらを吸い込んだフュージョンの力によって補強されたディメンションシュートは17人のプリキュアたちをなぎ払っていく。 不意打ちになったためブルームとイーグレットも満と薫もルミナスもバリアを張ることが出来なかった。 『きゃああああ!!』 巨大なビーム状となったディメンションシュートにより、プリキュアたちをなぎ払っていく。 無防備に構えていた所への最大火力だ、無事で済むわけがない。 フュージョンは吹き飛ばされたプリキュアたちを眺めて満足するように頷く。 そして、銀色の身体を一つの塊へと巨大な球体へと変えていく。 その身体をゆっくりと上空へと登っていき、十メートルを超えた瞬間にドーム状へと球体から柱が降り注ぐ。 「これ……って……!」 この風景に既視感を覚えたキュアピーチが呟く。 あれはフュージョンがプリキュアを取り込もうとした時と同じだ。 だが、ピーチは立ち上がるのが精一杯だ。 「超変身……! とりゃああああ!」 ドラゴンフォームに変身したユウスケが、高い跳躍力を生かして空中に浮いた球体の上に乗る。 手に持ったドラゴンロッドで球体へと向かって差し込む。 『ぐぅ……!?』 「こいつでも……食らいな!」 ライドブッカーをガンモードに変化させ、銃弾でクウガのフォローを行う。 ディメンションシュートの直撃を免れていた、クウガとディケイドはフュージョンへの攻撃を開始する。 たとえボロボロの身体であろうと決して引かない。 その姿は確かに歴戦の勇士と呼ぶに相応しい姿だった。 だが、フュージョンもせっかくのチャンスを逃すようなマネは避ける。 ここで有効な戦略は何かをフュージョンは考える。 ディエンドの記憶を探り、何がこの二人に有効か、それを考え、直ぐに対策は見つかった。 『全てを、一つに……!』 水銀の球体となったフュージョンの身体から飛び出た十数本の触手。 ディケイドの銃撃、クウガのドラゴンロッドによる切り落としで幾つかの触手が切り落とされる。 だが、二人の身体にダメージを積もっていたこともあり、攻撃を免れた触手が存在した。 「きゃあ!?」 その触手は一直線に、安全だと思っていた位置に居た光夏海を絡めとっていた。 「夏みかん!?」 ディケイドは銃撃を中断させる、と言うより中断せざるを得なかった。 夏海を吸収せずに盾にするようにディケイドへと向けたのだ。 人質の形を取られてしまい、ディケイドだけでなくクウガの動きも止まり、その隙を狙われ振り落とされてしまう。 「くっ……夏海ちゃん!」 着地しながらフュージョンに取り込まれようとしている夏海へとクウガが悲鳴のような声を投げかける。 もう一度攻撃を仕掛けようとするが、ディケイドと共にフュージョンの触手に追撃を受ける。 ダメージの深い身体に追い打ちをかけられ、ついに膝をついてしまう。 「士くん! ユウスケ!」 それを確認した後に、フュージョンは助けを求めるように、けれども攻撃を受けた二人を心配するような叫びを上げる夏海を取り込んだ。 『もう一度、弱らせる……さすれば、仮面ライダーとプリキュアは一つに……』 低い声を出しながら、フュージョンは再び仮面ライダーディエンドの形を取る。 そうして、腰元から一枚のカードを取り出す。 カードの絵を見なくても分かる。 フュージョンはディメンションシュート、もしくはブラストを撃ってくる。 「皆! 一箇所に集まって!」 ボロボロの身体に鞭を打ってパッションが叫ぶ。 パッションの変身アイテム、アカルンが持つ固有能力の瞬間移動。 それを使って逃げることは出来る。 倒すことができない以上、逃げざるを得ないと判断したのだ。 それに反論する人間はいない、何よりも全員が心身ともにボロボロだった。 ―――― ATACK RIDE BLAST ―――― だが、一瞬だけフュージョンの方が速かった。 機械音が響き、フュージョンの持ったディエンドライバーから幾つもの光弾が発射される。 「超変身!」 その瞬間、パッションへと向かっていたクウガが素早く背後へと切り返す。 ドラゴンフォームから耐久に優れたタイタンフォームへと姿を変え、タイタンソードを手に持ちアタックライドを切り払っていく。 とは言えタイタンフォームはパワーとスタミナは頭が一つ抜けているが、瞬発力は他のフォームに劣る。 全てを切り払えるわけがなく、幾つか被弾する。 だが、クウガは倒れなかった。 「ここは俺に任せて先にいくんだ! 早く!」 「ユウスケ!」 「安心しろ、士! 俺だって仮面ライダーだ! 絶対に夏海ちゃんやここの店主さんを連れ戻してくるさ!」 「おい、ユウスケ!」 士はその言葉が強がりだと分かる。 確かにクウガの力の源であるアマダムは強力なものだ、ディケイドの変身の核となるディケイドライバーと比肩するほどに。 だが、今のユウスケはそれを限界まで引き出すことは不可能だ。 ユウスケが未熟なのではなく、アマダムとはそれほど危険な代物なのだから。 士の声を無視するようにクウガは走り出す。 アカルンによる瞬間移動は既に準備が出来てしまっている、今から中止するのは不可能だ。 「ユウスケ!」 「さあ、来い!」 クウガが腰を落とし、真っ赤な複眼でフュージョンを睨みつけ、後方から士の声を聞いたその瞬間。 プリキュアたちはアカルンの力により、その場から消えていった。 ◆ ◆ ◆ . 丈の長い地味な色をしたコートと同色の帽子を被った初老の男が時計台の頂上にいた。 男の名は鳴滝、それが本名であるのか偽名であるのか、そもそも名前と言うものがあるのかすら知られていない謎の男だ。 これまでディケイドが旅したあらゆる世界に現れ、含みのある言葉をディケイド投げかけてきた男。 その鳴滝が眼鏡越しから暗闇に染まった世界を見下ろしていた。 「こうしてまた一つの世界が崩壊し……他の世界も危険に晒されてしまう……!」 誰に言うでもなく思わず口からこぼれてしまったと言った様子で、鳴滝は憎々しげにつぶやいた。 このプリキュアの世界は本来仮面ライダーが現れるわけがない世界だった。 あの騒ぎの中心にいるフュージョンも、ミラクルライトの力を吸い込もうともプリキュアに敗れるはずだったのだ。 だが、フュージョンは仮面ライダーの力を手にいれたことからプリキュアをも超える力となってしまった。 ディエンドの用いるカメンライドのようなライダーの召喚は行えないが、その知識から幾つものライダーもどきを作り出せるほどの力だ。 とは言え、そのライダーもどきたちはプリキュアやディケイド、クウガに敵うほどの力は持ち得ていなかった。 レプリカである上に、フュージョンが自身の力を分割させたのだから当然であろう。 カメンライドという手もあるが、あれにも限界がある。 だが、それもクウガのアマダムとケータッチの力を吸収してしまった今は少し事情が変わってくる。 アマダムほどの強大な力の源と一つとなったフュージョン、それが作り出すライダーのレプリカならばかなりの力を持っているはずだ。 しかも、それは何度も再生する。 幾らそのレプリカライダーをプリキュアたちが倒し続けようと、その隙にフュージョンは様々な力と一つとなっていくだろう。 そして疲労し弱体化してしまったプリキュアたちを、万全の力を持って叩き潰すはずだ。 「おのれ、ディケイド……!」 ギシリ、と鳴滝は歯を強く噛む。 ディケイドがいなければこんなことにはならなかった。 シンケンジャーの世界に続き、プリキュアの世界にもライダーが生まれてしまう。 全てはディケイドが、破壊者であるディケイドが現れたからこそ。 鳴滝は顔を怒りなどと言う言葉では生ぬるいほどの激情に染め上げる。 そして、全ての元凶であるディケイドへと、胸の内から溢れでそうなほど渦巻く感情をぶつける様に叫んだ。 「おのれ……おのれディケイドォ!」 To be next――――――――――――――――
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「確かに、俺は死神だ・・・だが、それは罪を重ねた悪人に対しての話だがな。一般的に人々は俺のことをこう呼ぶ・・・『仮面ライダースカル』。」 そう言って、変身を解除する仮面ライダースカル。 風に乗って剥がれ落ちる装甲の中からは、白い背広を着たひとりの男が立っていた。 「あんたは・・・いや、あなたは!」 「照井さん、あの男を知ってるんですか?!」 「ああ。所長の父親で・・・確か、名前は・・・。」 「鳴海 壮吉だ。」 「・・・いや、待て!左の話によれば、あなたは死んだはずでは・・・?」 「・・・え?」 「そう、確かに俺は死んだ。だから、この世界にいるんだよ。」 「・・・じゃあ・・・俺たちのいる世界は・・・。」 「そう、お前さんの予想どおり『死の世界』だ。」 鳴海 壮吉の言葉を聞き、愕然とする照井と上条。 だが、一方の鳴海は涼しそうな顔をしていた。 「そう早とちりするなよ、若人。」 「・・・え?」 「ここは『死の世界』・・・と言っても、まだ地獄の1丁目。つまり、生と死の境目みたいなところだ。」 「・・・じゃあ、まだ生き返れる可能性もあるんですね?!」 嬉しそうな顔をする上条。 「ああ・・・だが。」 「だが?」 「・・・さっきも言ったはずだ。俺は罪を重ねた者への『死神』だとな。」 「罪・・・?」 「これを見な。」 そう言って、指でパチンという大きな音を鳴らす鳴海。 すると、漆黒の空にひとつのヴィジョンが映し出された。 照井と上条の目に飛び込む光景。 それは、傷だらけになりながらもトライアル・ドーパントと戦う御坂 「あれは・・・井坂!それに御坂!!」 「ビリビリの奴、ひとりで戦ってるのか?!」 「これが・・・お前たちの『罪』だ。」 冷淡に言う鳴海。 「俺たちの・・・『罪』?」 「ああ、彼女はどうしてひとりで戦っていると思う?」 「ひとり・・・?待ってくれ!ビリビリには風紀委員の仲間がいるはずだ!それなのにどうしてひとりなんだ?!」 「彼女が望んだんだ・・・ひとりでの戦いをな。」 「・・・どういうことだ?」 「あの子は今、復讐の心のみであのドーパントと戦っている。悪と戦う仮面ライダーという存在、そして自らが愛する男という存在、 これを2つ失った悲しみや怒りによって生み出された心のみでな・・・。」 再び目に入る、トライアル・ドーパントと御坂との戦いが映し出されたヴィジョン。 そこには、トライアル・ドーパントの高速移動による四方八方から繰り出されるキックによってサンドバック状態と化しつつも、 気力のみで立ち上がりファイティングポーズをとろうとする御坂の姿があった。 「分かるか?あの子は刺し違えてでもあのドーパントを倒すつもりだ・・・いや、自殺しに行ってるが近いかもしれないな。 もう、自分の愛する者を奪われないために・・・そして、自分が二度と悲しまないために。」 「・・・ビリビリ!止めるんだ!!」 思わず叫ぶ上条。 「・・・そしてもうひとつ。」 そう言うと、鳴海は再び指を鳴らす。 現われるもうひとつのヴィジョン。 そこには、リボルギャリーのドックにてフィリップとともに何かを作っている禁書の姿であった。 「禁書!」 ヴィジョンに映った禁書の顔を見る照井。 その顔は、寝る間も惜しんで作業に徹していたのか、生気の薄れた顔となっていた。 だが、そこには何かを信じて待っているかのような希望も感じられるのであった。 「あの子はフィリップとともに、あのドーパントを倒すための武器を作っているそうだ。細かいところに関しては俺も不明だがな。」 「禁書・・・。」 三度、指を鳴らす鳴海。 すると、その上空のふたつのヴィジョンが消え、彼らの周囲は再び闇の世界へと戻った。 「・・・それじゃあ、ここで最後の選択だ。返答によってはお前たちを死の世界へ連れていくから覚悟しな。」 そう言って、鳴海はガイアメモリを構えた。 SKULL!! 「変身。」 鳴海の腰に巻かれたロストドライバーに挿入されるスカルのメモリ。 そして、紫の光が包み込み、再び彼を仮面ライダースカルの姿へと変えるのであった。 「さあ・・・お前の罪を数えろ。」 照井と上条を指差すスカル。 これに対し、ふたりはゆっくりと答えた。 「俺の罪・・・それは、悪の手から人々の心を守れなかっただけでなく、さらにはその命までの危険にさらそうとした罪!」 「2つ目・・・帰ってくること、そして悪を倒すことを願っている人がいるにもかかわらず、こんな闇の世界に留まっている罪!!」 「そして・・・最後の罪・・・。」 「それは・・・。」 「「正義が悪に負けた罪!!!」」 漆黒の世界に照井と上条の大きな声が響き渡った。 「・・・。」 無言でスカルマグナムを取り出し、スカルのメモリを挿入するスカル。 SKULL!MAXIMUM DRIVE!! 「何をするつもりだ?!」 「こうするのさ・・・。」 そう言って、照井たちに向けてギルティシュートを放つスカル。 だが、その弾丸はふたりの間を通り過ぎ、そして漆黒の壁に衝突した。 砕け散る壁、そしてそこからは神々しいほどの光があふれていた。 「これは・・・。」 「まあ、点数としては70点だが・・・ある程度自分の罪が分かってるから良しとしよう。」 「鳴海さん・・・いや、仮面ライダースカル!」 「その光の道を抜ければ現世に戻れる。そして・・・自分たちの言った罪を十分に償ってこい! またここに戻ってきたら承知しないからな!!」 「ありがとうございます!!」 そう言って、駆けだす上条。 続いて照井も駆けだそうとしたその時だった。 「照井 竜・・・と言ったな?」 「え・・・あ・・・はい。」 「・・・いや、なんでもねぇ。」 「・・・?」 「照井さん!早く行きましょう!!」 「あ・・・ああ!!」 そう言って、光の道を駆けていく照井と上条。 そして、崩れた壁は再生し、スカルの周囲は再び漆黒の闇と化した。 「照井 竜・・・か。」 つぶやくスカル・・・いや、鳴海 壮吉。 「まるで若い頃の俺を見てるようだ。だからこそ、亜希子が惚れたのかもしれないな・・・。 頼んだぜ、仮面ライダーアクセル!上条 当麻!!学園都市と風都の平和を、そして家族としての未来を!!!」 「まだ戦おうというのですか?虫けらの存在で・・・。」 一方、トライアル・ドーパントと御坂の戦いはまだ続いていた。 トライアル・ドーパントの攻撃を受け続け、立ち上がるのもままならない御坂。 だが、彼女の闘志は自身を無理やりにでも立たせるのであった。 「いやはや・・・医学、生命、ガイアメモリとこれまで色々なことを研究し自分なりに理解してきた私ですが、 未だに君たち虫けらの考えや行動というのが理解出来ませんねぇ・・・。」 そんな時、御坂がポツリという。 「・・・とう・・・ま・・・ライ・・・ダー・・・。」 「・・・ん?」 「もう・・・失い・・・たくない・・・。」 涙をこぼしながらつぶやく御坂。 だが、その言葉は意識を失いかけながらも立ち上がろうとする心の叫びだったのかもしれない。 「そうですか・・・では、失うことのないようあなたも地獄に送ってあげましょう。仮面ライダーが遺した武器によってね!」 そう言って、アクセルから奪ったエンジンブレードを振りかざし、御坂に襲いかかるトライアル・ドーパント。 しかし、限界まで来ていた御坂に動く力など無く、エンジンブレードを前に立ち尽くすのみであった。 「これで・・・最後です!!」 御坂に振り下ろされたエンジンブレード。 だが、その刃が彼女を襲う直前、何者かが立ちふさがり、刃の進行を止めた。 「何?!・・・!!」 「残念だったな、井坂。」 トライアル・ドーパントの前に立ち、真剣白羽取りをする赤き装甲の男・・・それは仮面ライダーアクセル=照井 竜であった。 「貴様・・・生きていたのか?!」 「『貴様』?残念ながら俺も生きてるぜ!!」 トライアル・ドーパントのもとへ現われるもうひとりの影。 その影は右手でトライアル・ドーパントの腕を握ると、何かを送り込むかのように右手に力を込めるのであった。 「な・・・う・・・腕の力が・・・?!」 「だから言っただろ?<幻想殺し>をなめるな・・・ってね。」 その声の主は上条 当麻であった。 <幻想殺し>によるエネルギー吸収によって腕の力を失うトライアル・ドーパント。 そして、ついにはエンジンブレードを支えることが出来ず、そのまま落とすのであった。 「今だ!」 即座に反応に、地面に落ちたエンジンブレードを拾い上げるアクセル。 そしてトライアル・ドーパントに連続して切りかかり、相手との間合いを取るのであった。 倒れるトライアル・ドーパント。 と同時に御坂は目を覚まし、現在の状況に気づくのであった。 「・・・あれ・・・私・・・?!」 「ビリビリ、大丈夫か?!」 駆け寄る上条。 「上条・・・。」 「ビリビリ・・・心配かけ・・・?!」 「あんたねぇ・・・この・・・大馬鹿ヤロォおおおおお!!」 御坂のもうひとつの能力である<電撃使い(エレクトロマスター)>が発動、膨大な電気エネルギーが上条の体に流れ、 彼の体はまるでギャグ漫画のような真っ黒焦げのアフロヘアーとなってしまうのだった。 「ちょ・・・待てよ!助けに来て、この仕打ちは無いだろう!!もう一回、地獄の一丁目に行ったら問答無用で地獄行きだってぇのに!!!」 「何をワケの分からないこと言ってるのよ!こっちはどんだけ・・・どんだけ・・・心配したと思ってるのよぉ!!」 大声をあげる御坂。 と同時に、心情が高ぶり過ぎたためか、彼女は子供のように泣き出してしまうのであった。 「・・・ったく。上条、何やってるんだよ。」 「え・・・俺のせいですか?!」 「何言ってるのよ!ぜぇ~んぶ、アンタのせいなんだから!!だから・・・明日はちゃんと映画に連れていくなり食事をおごるなり・・・ とにかく私のしもべとして働きなさいよ!!!」 「せっかく現世に帰ってきたのに・・・不幸だ・・・。」 「何が不幸だ!それがレディに対して言うセリフか!!」 「やれやれ・・・!おい、上条の処遇についてはあいつを倒してから話したほうが良さそうだぞ。」 そう言って、エンジンブレードを構えるアクセル。 その目線の先には、先ほどの攻撃でダメージを受けながらも立ち上がるトライアル・ドーパントの姿があった。 「おのれ・・・貴様ら虫けらどもにT2ガイアメモリの力が負けるはずがない!」 怒りの声をあげるトライアル・ドーパント。 これに対し上条が言う。 「あんたは重大な勘違いに気づいてないようだな。」 「勘違い・・・だと?」 「確かに俺らはあんたから見れば虫けらだ。力も能力もあんたに劣っている。だが・・・それは見方のひとつでしかない。」 「見方・・・?」 「そう、あんたは子供の頃に習わなかったか?物事というものはひとつの目線で捕えるんじゃなく、色々な目線で見つめ、 総合的に考えていく・・・ってね。あんたは『力』や『能力』といった点からは優秀だ。だが・・・それ以外は0点だ。 人の心を理解出来ず、命という存在を軽視するあんたはな!」 「Lv.0の分際でベラベラと・・・言いたいことはそれだけか?!」 「俺もあるぜ。」 アクセルが上条の隣りに立つ。 そして、トライアル・ドーパントを指差して言い放った。 「お前の罪を・・・数えろ。」 「罪だと?フン、私に罪など無い! 君の家族の命を奪ったのも、学園都市の者を襲撃したのも私の最強への道の実験台でしかないのだからな!!」 「・・・0点。」 「何だと?!」 「もう一度言ってやる。井坂、お前の全てが0点・・・いや、それ以下だ。」 「貴様ら、虫けらの分際で・・・私にそんな減らず口が叩けないようにしてやる!!」 怒りが頂点に達するトライアル・ドーパント。 この言葉に上条とアクセルが構える。 「その幻想・・・。」 「俺たちが・・・。」 「「振り切るぜ!!」」 怒りが頂点に達し、マキシマムドライブ状態となるトライアル・ドーパント。 これに対し、上条が後ろの御坂に向かって叫ぶ。 「ビリビリ!俺たちに向かって<超電磁砲>を放て!!それも生半可なもんじゃねぇ・・・お前の全身全霊を込めた<超・超電磁砲>をな!!!」 「はぁ?!何、そのネーミング!しかも、なんで?!」 「俺たちに質問するなっ!!」 叫ぶアクセル。 「だぁあああああ!!こうなったら、ヤケクソでその・・・えぇっと・・・ <超・ウルトラ・スーパー・ミラクル・ハイパー・超電磁砲>とやらをお見舞いしてやるから覚悟しなさいよ!!!」 「おい、ビリビリ!名前が盛大に間違・・・ぅおっ?!」 ツッコミを入れようと上条が後ろを見ると、そこには今までにないほどの電気エネルギーを解放していた御坂の姿があった。 彼女の両腕に集められる多量の電気エネルギー。 そして、それらは手のひらという小さな空間に集められることによって凝縮され、プラズマエネルギーと化する。 だが、今までの<超電磁砲>に使っていたような電気エネルギーと違い、 莫大な熱量を持ったプラズマエネルギーの制御に御坂は苦戦を強いられていた。 「くっ・・・行くわよ!!」 叫ぶ御坂。 「OK!・・・照井さん、行きましょう!!」 「ああ!!」 返事をするアクセル。 そして、自身のアクセルドライバーに挿されたアクセル・メモリを抜くと、エンジン・メモリへと差し替えるのであった。 ENGINE!MAXIMUM DRIVE!! ガイアウィスパーが流れるや否や、バイクモードへと変形するアクセル。 一方、上条は変形したアクセルにまたがり、再度御坂に向かって叫んだ。 「ビリビリ!今だ!!」 「どぉりやぁあああああ!!」 御坂の手から解放されるプラズマエネルギー。 そのエネルギーの塊は流星の尾のような光を描きながら、一直線にアクセルたちに向かっていった。 「上条、行くぞ!!」 アクセルドライバーのアクセルを勢いよく引き、飛び上がるアクセル。 その体は宙に浮き、そしてタイミングを合わせたようにプラズマエネルギーと合体、 光り輝くバイクとなってトライアル・ドーパントに向かっていくのだった。 「うぉおおおおお!!」 高速移動で一直線に襲いかかるトライアル・ドーパント。 同じく、敵に向かって一直線に突撃していくアクセル。 磁石のように引きあうふたつはやがて激突する・・・かと思われた。 だが・・・。 「・・・残念ですが、ここは勝ちに行かせてもらいますよ!!」 そう言って、今まで進んできた直線コースから突如として横に逸れるトライアル・ドーパント。 一方のアクセルは敵の突然の行動に対応することが出来ず、そのままトライアル・ドーパントの横を通り過ぎてしまうのであった。 「私を『0点』呼ばわりしたワリには、こんな猪突猛進な攻撃とは・・・やはり君たちは・・・。」 「いや、あんたは0点だよ。この攻撃をただの体当たりとしか思っていない限りはな!」 叫ぶ上条。 すると、まるでサーフボードの上に立つかのようにバランスをとって立ち上がるのであった。 「・・・何のつもりです?」 「お前を倒すつもりだぁ!!」 右手の<幻想殺し>に力を込める上条。 そして極限まで力を溜めると、その手をまるでテニスのラケットのごとく勢いよく振るのであった。 右手から放たれる<幻想殺し>のエネルギー。 それは手の動きをなぞるかのようにカーブしたエネルギー体となってアクセルの前に現われ、 そしてアクセルの軌道を再度トライアル・ドーパントに向けるのであった。 「何っ?!ならば!!」 再び一直線に向かってくるアクセルに対し、高速移動で避けるトライアル・ドーパント。 だが、今度は<幻想殺し>の力を使うことなくアクセルはUターン、三度トライアル・ドーパントへの攻撃を仕掛けるのであった。 「これはいったい?!」 「<超電磁砲>・・・それはビリビリらしい『一直線にしか進まない』攻撃技だ。だから、あんたはこの攻撃も一直線にしか来ないと考えたんだろう? そこで、俺と照井さんはその考えを逆手に取った作戦を採ることにしたんだ。<幻想殺し>で<超電磁砲>の特性である『一直線にしか進まない』性質を消し、 お前の高速移動に対抗した攻撃を・・・そして、固定概念に縛られたお前の動揺を誘うという作戦をな!」 上条の言うとおり動揺していたため、ついにアクセルの体当たりを受けるトライアル・ドーパント。 一方のアクセルは再度Uターンを行い、体当たりを行なう。 繰り返される、アクセルの攻撃。 その移動によって残された光の軌道は∞(無限)の文字を描き、トライアル・ドーパントにダメージを与えていく。 そして何度目かの攻撃の時、光の軌道を残したまま、アクセルがバイクフォームを解除して現われる。 ACCEL!MAXIMUM DRIVE!! アクセルドライバーに刺さっていたエンジン・メモリを抜き、再度アクセル・メモリへと差し替えるアクセル。 そして、アクセル・メモリのマキシマムドライブを発動させると、エンジンブレードを構えてトライアル・ドーパントを睨むのであった。 アクセルの脳裏に浮かぶ光景。 それは『笑顔』であった。 父、母、妹、鳴海 亜希子、上条、御坂、白井、そして・・・禁書。 全ての笑顔を守るため・・・仮面ライダーとして戦い続けるため、アクセルは自らの闘志を燃やした! 「・・・ぅおぉおおおおお!!」 闘志同様、アクセル・メモリの力によって燃え上がる体。 その炎はエンジンブレードへと集約され、エンジンブレードを炎の刀へと作り替えた。 「井坂!これで最後だ!!」 叫びとともに炎の刀を振り下ろすアクセル。 その一撃はトライアル・ドーパントを、そして相手の動きを拘束していた∞のプラズマエネルギーをも真っ二つにするのであった。 無限をも打ち砕く一閃・・・新技インフィニティスラッシャー完成の瞬間であった。 「そんな・・・馬鹿な・・・。」 「絶望が・・・お前のゴールだ。」 大爆発を起こすトライアル・ドーパント。 「やった!!」 「照井さん!ついに・・・倒したんですね!!」 アクセルのもとへ上条と御坂が駆けつける。 一方のアクセルもこの爆発を見て戦いが終わったのだと思い、変身を解除しようとベルトに手をかけようとしたその時だった。 突然、3人の体に走る電気のような恐怖の感情。 予測不能の事態にアクセルは再び構え、また上条たちも急いでアクセルのもとに現われる。 「これはいったい・・・?」 「・・・!」 「そんな!!」 爆発によって出来た火柱を見る3人。 その目線の先には、倒したはずの井坂の姿が、そして彼の手にはメモリブレイクしたはずのT2トライアル・メモリがあった。 「馬鹿な・・・メモリブレイクしたはずなのに・・・。」 「残念ですが・・・T2ガイアメモリは普通のとは・・・違いましてね・・・君たちのような虫けらには・・・ ブレイク出来ない構造に・・・なっているのですよ・・・。」 息も絶え絶えになりながら語る井坂。 「メモリブレイク出来ない・・・だと?」 「そう・・・だから・・・。」 TRIAL! 残された力で再度耳にメモリを挿入する井坂。 その姿はトライアル・ドーパントに・・・しかも、先ほどのアクセルたちの攻撃など無かったかのような無傷の姿となっていた。 「私を倒すことは出来ないのです。ましてや、虫けらごときが神に等しき力を持った私を倒そうなど不可能にも程がある!」 井坂が言う。 その声も先ほどのような満身創痍の声ではなく、ハツラツとした声であった。 「さあ、どうしますか?このまま素直に私に倒されるか・・・それとも、無駄に抵抗して私に倒されるか?」 「答えはひとつ・・・お前をメモリブレイクするだけだ。」 突然割り込む声。 トライアル・ドーパントが声の方向を見ると、 そこにはハードタービュラーに乗った仮面ライダーW サイクロンジョーカーエクストリームと禁書の姿があった。 ハードタービュラーを操作し、アクセルのもとへ現われるWと禁書。 その姿を見て、アクセルが声をあげる。 「禁書!それにフィリップと左!!」 「待たせたね、照井 竜。だが、今はおしゃべりする暇など無いようだ。」 「・・・ああ。しかし、どうやってメモリブレイクするつもりなんだ?」 「へへぇ~ん!それに関してはフィリップと禁書が対策済みさ!!」 翔太郎の意識がそう言うと、Wは右手を前に掲げた。 「「プリズムビッカー!!」」 胴体のクリスタルサーバーから現われるWの武器プリズムビッカー。 それを受け取ると、Wはアクセルに渡すのであった。 「これは・・・。」 「もうひとつ・・・禁書、君の番だ。」 「ハイハイなんだよ!」 そう言って、禁書がアクセルに何かを渡す。 「これは・・・ガイアメモリ?」 「そう・・・正確には『地球の記憶』と魔術や超能力といった『特殊能力』を組み合わせたハイブリットメモリといったとこかな?」 「てるい!これとてるいのメモリの力を合わせて、『青の通り魔』をボッコボコしてやるんだよ!!そうすればきっと勝てるんだよ!!!」 元気よく叫ぶ禁書。 「・・・。」 「てるい、どうしたの?」 黙るアクセルに対して問いかける禁書。 それに対し、アクセルが答える。 「禁書・・・今度こそ君との約束を果たす!」 「うん!ファイトなんだよ!!」 禁書の言葉を聞くと、アクセルは自身のドライバーからアクセル・メモリを抜き、 マキシマムカウンターを挿入した。 TRIAL! 響き渡るスターティングシグナルの音。 と同時に黄色くなるアクセルの装甲。 そして、スターティングシグナルの音が最高潮に達した時、アクセルの装甲は砕け、 新たなる青い装甲が包み込むように装着された。 「頼んだよ、てるい・・・うぅん!仮面ライダーアクセル トライアル!!」 Wから受け取ったプリズムビッカーを掲げるアクセル。 そして、彼はプリズムビッカーのマキシマムスロットにガイアメモリを挿入していく。 ENGINE!MAXIMUM DRIVE!! RAILGUN!MAXIMUM DRIVE!! IMAGINE BREAK!MAXIMUM DRIVE!! ACCEL!MAXIMUM DRIVE!! マキシマムスロットから飛び出す4つの光。 それらはひとつの球体となってトライアル・ドーパントを包み込んだ。 「な・・・なんだこれは?!」 驚くトライアル・ドーパントを上空へと持ち上げる光。 対するアクセルはプリズムソードを右手に持つと、左手のプリズムビッカーを投げ、マキシマムカウンターに持ち替えた。 押されるマキシマムスイッチ、そして勢いよく回転しだすトライカウンター。 それを確認したアクセルはマキシマムカウンターを空高く放り投げると、プリズムソードを構え、 そして上空で拘束されたトライアル・ドーパントに対しプリズムトルネードの体勢に入った。 「全て・・・振り切るぜ!!」 勢いよく飛び上がり、トライアル・ドーパントを球体ごと斬ろうとするアクセル。 だが、その瞬間、トライアル・ドーパントは自身を捕えていたエネルギーを破壊、 さらにはアクセルの持つプリズムソードをも掴んでしまうのであった。 「何?!」 「言ったはずです!神に等しき力を持った私が負けるはずないと!!」 「そんな!あいつにはプリズムトルネードも効かないのか?!」 上空での光景に対し、叫ぶ翔太郎の意識。 「照井さん・・・。」 上条も落胆した声をあげる。 だが、そんな状況に禁書が叫んだ。 「とうま!そんな悲しい声をあげてる暇なんて無いんだよ!!今はてるいを応援するんだよ!!!」 「禁書・・・。」 「だから、ホラ!みさかも、フィリップも!!仮面ライダー!!!」 「・・・うん!もうひと踏ん張りよ、仮面ライダー!!」 「照井 竜・・・見せてくれ、君の仮面ライダーとしての力を!!」 「照井!!」 「照井さん!・・・いや、仮面ライダー!!」 「仮面ライダー!!!」 『仮面ライダー!!!』 アクセルの耳に届く仲間の声。 その声が、再びアクセルに力を与える。 「井坂・・・お前の力は『神に等しい』と言ったな?」 「ん?何を急に・・・。」 「ならば貴様の負けだ。何故なら俺は・・・罪を重ねた者への『死神』なんだからな!!」 その時、上空からひとつの光が現われ、プリズムソードのメモリスロットに挿入される。 アクセルの耳に飛び込む、ひとつのガイアウィスパー。 それはハッキリとこう言っていた。 SKULL!MAXIMUM DRIVE!! 「ぅおぉおおおおお!!」 両手でプリズムソードをしっかりと握り、力を込めるアクセル。 「こ・・・この力は・・・!!」 耐えるトライアル・ドーパントであったが、突如力を増したプリズムソードに耐えることが出来ず、手を離してしまう。 その瞬間、全ての人の思いが詰まった一撃がトライアル・ドーパントの体を貫いた。 プリズムソードを手に、地面へ着地するアクセル。 と同時にマキシマムカウンターも彼の左手に収まる。 TRIAL!MAXIMUM DRIVE!! 「9.8秒・・・やはりこれが・・・井坂の絶望までのタイムだ。」 その言葉の直後、大爆発を起こすトライアル・ドーパント。 その直後、噴煙からはT2トライアル・メモリが飛び出すが、 『地球の記憶』と『特殊能力』のふたつの力を持ったメモリブレイクによって機能を停止、 さらには地面に激突し、そのショックで粉々に砕け散るのであった。 こうして、学園都市で起きた『青の通り魔』の事件は終焉を迎えた。 「てるい!」 アクセルのもとへ駆けつける禁書。 そして勢いよくジャンプし、そのままアクセルに抱っこされるのであった。 「禁書・・・やったぞ!!」 「うん!」 「照井さ~ん!」 「仮面ライダー!!」 駆けつける上条と御坂。 アクセルは禁書を下し、変身解除する。 「これで・・・終わりよね?」 御坂が問いかける。 「ああ、これで・・・。」 「いや・・・終わりじゃないかもしれない。」 照井の言葉をさえぎる声。 その声の主は変身解除したフィリップであった。 「どういうことなんです?!」 上条が言う。 「確かに井坂のメモリブレイクは出来た。だが・・・井坂自体の姿が見えない。」 そう言って、破壊されたT2ガイアメモリの方向を見るフィリップ。 仮面ライダーたちが行うメモリブレイクはガイアメモリ自体を破壊することであり、 素体となった人間に対してはダメージを与えることはあっても破壊することは無い。 だが、この戦いの場に残されていたのはメモリの破片のみであった。 「それじゃあ・・・また、あのドーパントが出るかもしれないって言うの?!」 「いや、それはねぇ。だが、井坂が生きてる可能性がある・・・って話だ。」 翔太郎が言う。 では、井坂はどこへ消えたのか? 学園都市、戦いの場から少し離れたエリア。 そこに、ひとりの白い服装に包まれた男に肩を貸してもらいながら歩く井坂の姿があった。 「申し訳ありませんね・・・加頭くん・・・こんな醜態を・・・さらす羽目になるとは・・・。」 「いえ、私は上からの命令に従っているだけですから。」 「・・・と言うと・・・財団Xは・・・私を・・・助けると・・・。」 「いえ。」 「何・・・?」 「上からの命令はこうです。『井坂 深紅郎に財団Xからの言葉を伝えろ』と。」 そう言って、唐突に井坂を突き放す加頭 順。 「どういう・・・ことだ・・・。」 「あなたを助けたのは、あなたに上からの言葉を伝えるという命令が遂行できなくなる故の措置。 あなたの命を助けるつもりなど財団Xも・・・そして私も毛頭ありません。」 「そんな・・・。」 「財団Xからの言葉をお伝えします。『試作型T2ガイアメモリに関するデータの収集は完了した。 以後、今回のデータをもとにT2ガイアメモリを量産させる。 しかし、T2ガイアメモリは財団Xの秘密事項であるにもかかわらず、仮面ライダー側に一部データを露呈させてしまった。 そのため、少しでも機密漏えいを阻止するため、井坂 深紅郎の口を封じさせてもらう』・・・とのことです。」 「そんな・・・助けてくれ・・・助けてくれ!」 「残念ですが、私は上の命令に従うしかないサラリーマンですから・・・。」 そう言って、加頭はガイアメモリを取り出して構える。 UTOPIA! 変貌する加頭の体。 そして、現われた異形の存在は無抵抗な井坂へゆっくりと迫る。 「う・・・うわぁあああああ!!」 学園都市に木霊する井坂の断末魔。 だが、その声に気づく者は誰ひとりとしていなかった。 いや、ひとりだけその声を聞いていたものがいた。 「随分と派手にやってるな、兄弟。」 加頭の背後に現われるひとりの男。 「おや、あなたは・・・確か、風都でのNEVER増員計画の指揮を執っていたはずでは?」 「ああ・・・だが、Xビッカー一基だけじゃ不安でな。そこで財団Xに何らかの援助を・・・と思って来てみたら・・・。」 「言っておきますが、T2ガイアメモリの譲渡は出来ませんよ?」 「ばれたか。しかしよう、兄弟!なんとかならないのかい?」 「さっきの会話を聞いていたなら分かるでしょう。私は上の命令に従うだけのサラリーマン。 いくらあなたと同じNEVERと言えど、私の一存であなた方への援助は出来ないのです。」 「そうか・・・。」 「・・・しかし・・・これは私の独り言です。」 「・・・ん?」 「T2ガイアメモリは原本完成後、空路でディガルコーポレーション地下の工場で量産化する予定です。輸送日はまだ未定ですがね・・・。」 「ほほう・・・こりゃ、たいそうな独り言だな。」 「この言葉をどう捉えるかはあなたにお任せします。では、私は次の仕事があるので・・・。」 そう言って、男の前から立ち去る加頭。 「・・・兄弟、ありがたく使わせていただくよ。その言葉も・・・そしてT2ガイアメモリもな!」 叫ぶ男。 その男の手には、ガイアコネクタを模した<E>のガイアメモリがあった。 『青の通り魔事件』から2週間後。 風都にある風都警察署、その中の会議室に大勢の人が集まっていた。 上条、御坂、禁書、白井、初春、翔太郎、フィリップ、そして亜希子。 何も知らされずに来た8人はどうしたら良いか分からず、なんとなく椅子の上でソワソワとしていた。 「それにしても・・・突然呼び出すなんて、竜くんどうしたんだろうね?」 「さあな・・・照井なりのサプライズでもあるんじゃねぇの?」 「・・・ん?」 突然、禁書が小さな鼻をヒクヒクさせる。 「どうしたんだい、禁書?」 「ねぇ・・・良い匂いがしない?」 「ん?・・・む、これは・・・。」 「・・・間違いなく、『アレ』ですわ。」 「確かに・・・『アレ』の匂いですね。」 「・・・いや、ただの『アレ』じゃねぇ・・・まさか!!」 上条が叫んだ瞬間、会議室の扉が開き、エプロン姿の刃野とその部下で同じくエプロン姿の真倉 俊、 そして割烹料理人のような姿をした照井が現われた。 「待たせたな。刃野、真倉!」 照井の声を受けて、ドアの外から何かを持ってくるふたりの刑事。 真倉は小山のように盛られたご飯が入った平皿が何枚も乗ったカートを、 刃野は先ほどの匂いを発する大きなズンドウ鍋が乗ったカートをそれぞれ会議室に入れるのだった。 刃野からカートを受け取り、ズンドウ鍋の蓋を開ける照井。 そこに入っていたのは・・・。 「照井さん・・・これって・・・。」 「ああ、『恐竜や』バイト中に教わった<フルーツスパイシーカレー>だ。」 「やったぁ!カレーだぁ!!・・・でも、なんで?」 禁書が照井に聞く。 それに対し、照井はさらにカレーを盛り、禁書の前に置いてこう言った。 「約束したろう?トライアル・ドーパントを倒せなかったら、禁書に腹いっぱいご飯を御馳走してやる・・・と。」 「え・・・でも、倒したんじゃ・・・。」 「結果的にはな。だが、一度は敗れ、禁書や御坂を悲しませることになってしまった。 その罪滅ぼしになるかは分からんが・・・まあ・・・とにかく、俺に質問しないでさっさと食え!」 照井が笑顔で答える。 「えぇっと・・・うんっ!!」 その笑顔に答えるかのように、禁書もいっぱいの笑顔で返事する。 全ての行き渡るカレー。 そして、禁書の「いただきます!」という言葉を合図に勝利の宴が始まった。 「辛っ!でも旨っ!!」 「この味・・・このスパイシーさ・・・ゾクゾクするねぇ!」 「おかわりなんだよ!」 「私も!」 「早っ!ビリビリも早っ!!」 「満腹が・・・お前たちのゴールだ。」 会議室に響き渡る嬉しそうな声。 その声は外にも伝わっていた。 そして、その光景をひとりの男が見ていた。 「さすがだ、仮面ライダーアクセル!そして、上条 当麻!!あの時は70点なんて言っちまったが・・・これで100点だ。」 そう言って、頭の帽子を被り直す男。 それは鳴海 壮吉であった。 「もう、心配はいらないようだな。風都には翔太郎、フィリップ、そして照井 竜。学園都市には上条 当麻と御坂 美琴。俺の出る幕じゃねぇ・・・。」 そう言って、鳴海がその場を去ろうとしたその時だった。 彼の頭上を通り抜ける一台のヘリコプター。 そして、それを追いかけるかのように飛ぶ一機の飛行機。 そのふたつが通り抜けた瞬間、風都に何とも言えない不気味な風が流れた。 「これは・・・。」 飛行機の飛んで行った方向を見る鳴海。 「・・・もう一仕事必要かもしれないな。」 その数十分後、風都上空にてヘリコプターが謎の大爆発を遂げるという事故が発生。 さらに、ヘリコプターに積まれていた26本のガイアメモリが爆発の衝撃で飛散、風都中に巻かれるのであった。 今まさに、新たなる『死神』によるパーティタイムが始まろうとしていた・・・。 おわり
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彼、乾巧は、草原の上に倒れていた。 巧は、目覚めた。 ふ、ここは天国か。悪くないな。 そう思った。あの時、俺は死んだんだ。蚊が頬にとまった。 ベチッ 巧は、頬を叩いた。 普通なら痛みはないはずだ。だが、かすかに痛みが生じた。 そのとき、巧は言った。 巧「なんで生きているんだ!?」 とりあえず、周りを見た。 オートバジン、ベルト、財布(なぜかあった)、服、ファイズブラスター。 とりあえず前向きに考えてみる。 巧「とりあえず、ベルトとファイズブラスターは使わない。服と財布とオートバジンは使う。まあ、一応ここら辺を探索してみるか。」 そして、オートバジンに乗り、探索することにした。 予告 広場まで来たとき、音楽が聞こえた。 行ってみると、そこには4人の女の子が踊っていた。 その時だった。突如、怪物が現れた。 巧が変身しようとしたら、踊っていた女の子が変身した。 次も、complete!
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